野球記録あら?カルト by 久保拓也

    第1回 インプレー率とインプレー打率 〜その1〜

    第2回 インプレー率とインプレー打率 〜その2〜

    第3回 実働1年目の満年齢別最多本塁打



     第1回 インプレー率とインプレー打率 〜その1〜


     読者のみなさん、はじめまして。野球記録あら?カルトという野球の記録のサイトを運営しております、久保拓也と申します。今回よりぼーる通信にて執筆させていただくことになりましたので、よろしくお願い申し上げます。


     さて、インプレー率とインプレー打率。これはいったい何でしょうか。編集長のMBさんが自分のサイトをチェックしたとき、真っ先に出てきた質問がこれでした。そこで私はそのリクエストに応え、これから書いてみることにしたわけです。


     まず『インプレー率』とは、バッターが打席に立ったとき、どれだけの打球をフィールドの扇形の中に打ち込んだか、というものです。そしてインプレー率が高いということは、その打者の時、打球がフィールドのどこかに行くという確率が高いということですから、その打者の時には、決して目が離せないということになります。
     一方、『インプレー打率』とは、三振や打撃妨害、犠打と犠飛を除き、バットに当たった時の安打の確率のことです。要するに「バットに当たったら安打が出る指標」と捉えていただければ結構です。


     そこで、このインプレー率、あるいはインプレー打率が示すものについて考えてみましょう。


     たとえば我々一般ファンが“プロ野球史上最高の打者”というテーマで呑み屋などで語り合うとき、王貞治の名前を避けて通ることはできません。
     しかし、『球の行方から目が離せない』という点において王選手が優れているかといえば、必ずしもそうではないかもしれないのです。というのも、王選手は、昨年までに一流の打者の証といわれる4000打席を記録した261選手の中で、インプレー率は.678と255番目の選手だからです。このように、卓越した選球眼という稀有な能力により、フォアボールが多くなるために、インプレー率においては、わくわくさせる選手にはあたらなくなってしまう可能性が出てきてしまうのです。
     ただ、インプレー率が高ければファンをわくわくさせることが出来るかといえば、必ずしもそういうわけではないというのは、冷静に考えればわかることです。というのも、いくらインプレーとなって試合が動くきっかけになる機会が多くても、結果が伴わなければファンは喜ばないのは自明のことですから。だからこの際には、インプレー打率も、これにあわせて判断するのです。


     たとえば、インプレー率が高くてもインプレー打率が低い代表的な選手というと、鎌田実選手が挙げられます。
     鎌田選手は、昨年まで通算4000打席以上を記録した選手261選手の中で歴代3位の.889のインプレー率を誇っていますが、インプレー打率は.247でしかない。このインプレー打率は、インプレー率.850以上の選手34人の中では最下位ですので、鎌田選手には失礼な言い方かもしれませんが、鎌田選手の打球でガッカリしたことのあるファンは、鎌田選手と同時代に生きたひとたちの中には少なからずいるのではないか、と私は推測しています。
     したがって、インプレー率が優れており、かつインプレー打率も優れている。この両方が伴った選手がもっともファンを楽しませることが出来る選手、すなわち「FAN TO WATCH」となりうる選手なのではないかと私は考えています。そこで今回からしばらくの間、1リーグ時代、1950年代、1960年代、1970年代と年代別に、「FAN TO WATCH」となりうる選手たちについて検証してみたいと思います。
     1リーグ時代、2000打席以上を記録したのは49人。次回は、この年代の選手について見ていきましょう。



     第2回 インプレー率とインプレー打率 〜その2〜


     読者のみなさまこんばんは。前回は、上記のテーマであるインプレー率とインプレー打率について軽く説明させていただきましたが、今回は、各年代別に代表的な選手を取り上げ、その時代ごとの変化を見ていきましょう。
     ちょっと、1リーグ時代の選手たちについて紹介する前に、全体的な傾向をおさらいしておく必要があると感じたため、予定を変更します。


     まず、各年代、および全時代を通して、最高の『インプレー率』ならびに『インプレー打率』を記録した選手の名前とその数字を、下に記してみます。


    (インプレー率)

    1リーグ 野口 二郎 .907
    1950年代 引地 信之 .903
    1960年代 鎌田 実  .889
    1970年代 弘田 澄男 .885
    1980年代 新井 宏昌 .882
    1990年代 正田 耕三 .841
    2000年代 真中 満  .852
    通算   後藤 次男 .915


    (インプレー打率)

    1リーグ 大下 弘  .337
    1950年代 与那嶺 要 .362
    1960年代 王 貞治  .360
    1970年代 加藤 英司 .360
    1980年代 落合 博満 .374
    1990年代 イチロー  .380
    2000年代 Alex Cabrera.414
    通算   Ralph Bryant.431


    【注:いずれも3,000打席以上】


     これらの数字を見ていると、以下のようなことがわかります。
     各年代、ならびに全時代を通して1位のインプレー率を記録している選手は、チームにとってのサブ的役割を担ってきた選手ばかりです。つまり、こういった選手のみなさんは決して主役になることはないのですが、チームの勝利をお膳立てする上においては、絶対に欠かせぬ存在になってきたのです。
     そして彼らに共通しているのは、主に2番打者であったことです。1番打者が出塁したら、進塁打や犠牲バントという手段で、フェアゾーンにボールを転がし、バッターを進める。したがって、とにかくバットにボールを当てるのがうまい選手が、上位に顔を出しているわけです。


     また、犠牲バントはインプレー率に含まれているので、バントの多く求められるこの手の選手が、インプレー率を稼ぐという点では有利な面があるため、普通に打つバッターと比べ、どうしてもインプレー率は高くなります。したがって、インプレー率の高さは必ずしも、その選手が優れた打者であることを示さない、という意見があるのは事実です。
     しかしながら、打順柄進塁打を要求されることが多い彼らは、三振を奪いにくい打者であることが多く、特に新井宏昌は、シーズン規定打席以上の打者の中で、リーグ最少三振を6度も記録している好打者です。この点を踏まえずに、インプレー率の高い打者をあまり評価しないわけにはいかないでしょうし、また、インプレー率を語るにあたっては、この点を見逃すわけにはいきません。


     それから、各年代ごとの特徴としていえるのは、年代が新しくなるにつれ、インプレー率は低く、インプレー打率は高くなっているということです。これなぜかというと、上記の説明とすこしかぶりますが、全体の傾向として、三振の数が増えているからです。三振が増えてくれば、ボールがフェアゾーンに飛ぶ確率は低くなりますから、当然インプレー率は低くなってくるわけです。


     一方、三振や打撃妨害、犠打と犠飛を除き、バットに当たった時の安打の確率となっているのがインプレー打率ですから、三振が増えれば当然、バットにボールが当たる確率が減る以上、ヒット数が変わらなければ、これは高くなってきます。
     現代はピッチングテクニックが向上し、ピッチャーが三振を取りやすくなってきていますから、シーズン100三振以上の首位打者が生まれるなどの現象も起きています。したがって、三振は打者の技術をもってしても防げなくなってきており、インプレー打率が高くなるのは時代の必然といえましょう。


     では続いて、インプレー打率が表すものについて、考えてみましょう。
     まず、上記のリストにおける、各年代、ならびに全時代を通して1位のインプレー打率を記録している選手を見てみます。すると、各年代、ならびに、球史を代表するような最高の選手と言ってもよいくらいの顔ぶれがずらりと並びます。
     しかしながらインプレー打率はあくまでも、バットに当たると怖いという観点から見た数字なので、この数字が高い選手たちは最高の選手たちであるかもしれませんが、最強の打者たちであるとは言い切れない面があります。
     たとえば3,000打席以上を記録した選手のトップのインプレー打率を叩き出しているのはラルフ・ブライアント選手(近鉄バファローズ)ですが、確かに怖い打者ではあったものの、穴が多く、三振の多い選手でした。したがって、どこに投げても打たれそうという打者ではなかったのです。ですから、インプレー打率が優れていても最強打者と言えない、とされているのはそれが理由だったりするわけです。


     さて、今回は年代別に名前を挙げてインプレー率とインプレー打率について語ってみましたが、これらの分析を通じていえることは、ファンが楽しめる選手というのは打球が前に転がる確率が高く、かつ結果が良い選手なのです。王選手のような最強の打者ではないかもしれませんが、この選手の球の行方は大いに楽しむことができる、というのが、見ていて楽しいわけです。
     観客は、バッターが四球を選ぶことを求めているのではありません。フィールドに転がる球の行方を楽しむのです。そして、それをできる選手こそが、「ファンを楽しませる選手」なのです。



     第3回 実働1年目の満年齢別最多本塁打


     前回まではインプレー率とインプレー打率の話をしてまいりましたが、私は本来、長期連載形式が得意ではないし、また、編集長のMBさんも私にそういう形式を別に期待しておらず、タイトルどおり、短めのアラカルト的なものを望んでおられたようですので、今回より、その形式にて文章を書いていきたいと思います。副題は、スポーツ紙が書かないはみ出し記録の決定版。よろしくお願い申し上げます。
     今回のテーマは、”実働1年目の満年齢別最多本塁打”です。


     2003年の来日以来、2年連続本塁打王を獲得し、昨年リーグ総本塁打ランキングにて38本で3位、今年もリーグ2位の30本塁打を放っているT.ウッズ(中日)。今月19日で37歳になりますが、いまだ大きな衰えは見られません。
     しかも、満34歳のシーズンで来日した外国人選手の中では出色の通算153本塁打を既に放っており、満34歳のシーズンが実働1年目の選手における最多本塁打記録保持者、D.ロバーツ(近鉄バファローズ)の183本塁打を通算で超えそうな勢いです。来季もウッズのプレーを見る事ができれば、34年ぶりの記録更新の可能性は充分にあるといえるでしょう。


     ちなみに実働1年目が満16歳から満35歳までの選手の中で、それぞれの年齢での通算本塁打数上位5傑を見ると、現役選手は14人がランクインしており、そのうち最多本塁打を記録しているのは、金本知憲(現阪神タイガース・24歳)とA.カブレラ(現西武ライオンズ・30歳)の2人です(下表参照)。
     また、今季中に同ランキングにおける上位5傑に入りそうな選手が3人います。F.セギノール(日本ハム)は満27歳が実働1年目の選手の中で、2006シーズン途中現在、ランク8位の112本塁打。5位タイのC.ポンセ(大洋ホエールズ)とN.ウィルソン(近鉄バファローズ)には7本差。今期の本塁打ペースだと厳しい状況ですが、達成可能性はまだまだ残っています。
     ちなみに、満29歳が実働1年目の選手では、J.フェルナンデス(楽天イーグルス)が6位の113本塁打を記録。5位のT.クルーズ(日本ハムファイターズ)とはこちらも7本差。今季、残り試合をフル出場し、このままのペースで本塁打を量産すれば、単独5位に入りそうな勢いです。
     最後に、満33歳が実働1年目の選手では、ベニー.A(ロッテ)が6位タイの59本塁打を記録しています。5位M.ホール(中日)までは5本差と、一度くらいの固め打ちがなくては、到達は難しいかもしれません。3選手とも、ぜひ、それぞれの1年目実働年齢ランキングで、上位5傑入りして欲しいものです。日本人選手よりも、来季の契約更改可能性は低いでしょうしね。


    [記録は8月13日現在]


    実働1年目における満年齢 通算本塁打数 打席の左右 名前 実働最終所属球団
    16
    212
    西沢 道夫
    中日ドラゴンズ
    2
    古沢 憲司
    広島カープ
    17
    47
    岩本 章
    広島カープ
    38
    金田 正一
    読売ジャイアンツ
    8
    山田 潔
    大映スターズ
    1
    大平 茂
    阪急ブレーブス
    1
    中河 美芳
    黒鷲イーグルス
    18
    504
    衣笠 祥雄
    広島カープ
    331
    松原 誠
    読売ジャイアンツ
    265
    青田 昇
    阪急ブレーブス
    263
    豊田 泰光
    サンケイアトムズ
    194
    柴田 勲
    読売ジャイアンツ
    19
    868
    王 貞治
    読売ジャイアンツ
    657
    野村 克也
    西武ライオンズ
    522
    清原 和博
    オリックスブルーウェーヴ
    504
    張本 勲
    ロッテオリオンズ
    465
    土井 正博
    西武ライオンズ
    20
    486
    大杉 勝男
    ヤクルトスワローズ
    396
    山内 一弘
    広島カープ
    352
    江藤 智
    西武ライオンズ
    292
    真弓 明信
    阪神タイガース
    285
    木俣 達彦
    中日ドラゴンズ
    21
    382
    大島 康徳
    日本ハムファイターズ
    347
    加藤 英司
    南海ホークス
    251
    山崎 武司
    楽天イーグルス
    232
    柏原 純一
    阪神タイガース
    203
    松永 浩美
    ダイエーホークス
    22
    567
    門田 博光
    ダイエーホークス
    444
    長島 茂雄
    読売ジャイアンツ
    367
    江藤 慎一
    ロッテオリオンズ
    338
    長池 徳士
    阪急ブレーブス
    278
    田代 富雄
    大洋ホエールズ
    23
    536
    山本 浩二
    広島カープ
    474
    田淵 幸一
    西武ライオンズ
    382
    原 辰徳
    読売ジャイアンツ
    348
    有藤 道世
    ロッテオリオンズ
    315
    小久保 裕紀
    読売ジャイアンツ
    24
    352
    金本 知憲
    阪神タイガース
    260
    松中 信彦
    福岡ソフトバンクホークス 
    232
    小笠原 道大
    日本ハムファイターズ
    229
    島谷 金二
    阪急ブレーブス
    217
    古田 敦也
    ヤクルトスワローズ
    25
    282
    藤井 康雄
    オリックスブルーウェーヴ
    236
    石毛 宏典
    福岡ダイエーホークス
    232
    マルカーノ
    ヤクルトスワローズ
    153
    和田 一浩
    西武ライオンズ
    133
    仁志 敏久
    読売ジャイアンツ
    26
    510
    落合 博満
    日本ハムファイターズ
    277
    大豊 泰昭
    中日ドラゴンズ
    268
    レオン
    ヤクルトスワローズ
    218
    シピン
    読売ジャイアンツ
    167
    R.ローズ
    横浜ベイスターズ
    27
    259
    ブライアント
    近鉄バファローズ
    189
    マーティン
    大洋ホエールズ
    174
    ラミレス
    ヤクルトスワローズ
    160
    デストラーデ
    西武ライオンズ
    119
    ポンセ
    大洋ホエールズ
    28
    360
    T.ローズ
    読売ジャイアンツ
    223
    ペタジーニ
    読売ジャイアンツ
    161
    アリアス
    読売ジャイアンツ
    155
    別当 薫
    毎日オリオンズ
    131
    ハドリー
    南海ホークス
    29
    283
    リー
    ロッテオリオンズ
    277
    ブーマー
    ダイエーホークス
    246
    クラレンス
    近鉄バファローズ
    202
    バース
    阪神タイガース
    120
    クルーズ
    日本ハムファイターズ
    30
    238
    カブレラ
    西武ライオンズ
    160
    ウィンタース
    日本ハムファイターズ
    136
    ニール
    オリックスブルーウェーヴ
    74
    タイローン
    南海ホークス
    70
    メイ
    南海ホークス
    31
    171
    クロマティ
    読売ジャイアンツ
    166
    リトル
    南海ホークス
    153
    ゴメス
    中日ドラゴンズ
    123
    オマリー
    ヤクルトスワローズ
    117
    デービス
    近鉄バファローズ
    32
    189
    マニエル
    ヤクルトスワローズ
    129
    ロペス
    広島カープ
    125
    杉浦 清
    国鉄スワローズ
    117
    ボールズ
    西鉄ライオンズ
    104
    マルティネス
    読売ジャイアンツ
    33
    155
    ソレイタ
    日本ハムファイターズ
    122
    レポス
    ヤクルトスワローズ
    113
    ミッチェル
    日本ハムファイターズ
    92
    ボーリック
    千葉ロッテマリーンズ
    64
    ホール
    中日ドラゴンズ
    34
    183
    ロバーツ
    近鉄バファローズ
    153
    ウッズ
    中日ドラゴンズ
    126
    カークランド
    阪神タイガース
    102
    ギャレット
    広島カープ
    66
    パリス
    東京オリオンズ
    35
    205
    アルトマン
    阪神タイガース
    152
    スペンサー
    阪急ブレーブス
    71
    ボイヤー
    大洋ホエールズ
    49
    スチュワート
    大洋ホエールズ
    44
    M.フランコ
    千葉ロッテマリーンズ

    ※データは2005シーズン終了時

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