ベースボール・ビジネス by B_wind

    ベースボール・ビジネス51 30億円

    ベースボール・ビジネス52 ポストシーズン・ゲーム



     ベースボール・ビジネス51 30億円


     阪急ホールディングス(HD)による阪神電鉄のTOBが成立し、阪神電鉄は阪急HDに統合されることになりましたが、6月29日には両社の株主総会でも承認され、10月には、連結売上高で業界3位の大手私鉄となる「阪急阪神ホールディングス」が誕生することになりました。

     「長年のライバルとの統合」のため、新たに阪神阪急HDという統合新会社を設立し、その下に、阪急交通社や阪急ホテルマネジメントのほか、阪神電鉄、阪急電鉄の4業態を据え、鉄道・バスの運営体制の効率化など強固な企業グループを形成するとししています。
    また、阪神タイガースの売却や名称変更はしない考えをあらためて示されました。

     ところが7月4日のオーナー会議では、阪神電鉄と阪急HDの経営統合については球団保有者変更と見なされ、預かり保証金など計30億円をNPBに納入することが決められてしまいました。

     初のオーナー会議出席となった宮崎恒彰新オーナー(阪神電鉄取締役)は、球団が阪神電鉄の完全子会社という形式に変更がないことを主張、保証金などの免除を求めましたが、賛同したのは西武と広島の2球団。読売は保証金25億円のみ、という考え。他の8球団の反対にあう形で、野球協約に従い、球団譲渡の場合と同じく、預かり保証金25億円、野球振興協力金4億円、加入手数料1億円、合計30億円の支払いを課せられることになってしまいました。

     7月6日のスポーツ新聞によれば、「私ども、71年の間、日本プロ野球に貢献してきました。親会社が阪急阪神ホールディングスになりますが、実態は変わりがない。(12球団は)ある意味クローズド・ソサエティーだったのが、別の考え方が入って若干、変わってしまった」と、宮崎オーナーをはじめ阪神側は、これまでの実績と信用から、保証金免除の特例処置は承認されると考えていたようです。(7月6日サンケイスポーツ)

     オーナー会議の雰囲気は手塚前オーナーから伝え聞いていた様子とは全く違っていたようで、そこには情や過去の貢献などを考慮する雰囲気はなく、あくまで協約を順守するビジネスライクに徹した厳しい空気が流れていました。(7月6日デイリースポーツ)

     保証金免除に強硬に反対したのが、2004年に保有者変更で保証金を納めたソフトバンク・孫オーナーのようで、「阪急による事実上の買収だ。ルール通りにやるのが順当」と反対姿勢を明確にしています。また、8球団が保証金を求めたのには、阪急がかつて球団(ブレーブス)を手放した経緯があることも背景にあるようで、阪神には保証金のほか、球団を長期保有する誓約書の提出も求められています。

     阪神側は、「71年にわたって球界に貢献してきた」として徹底抗戦の構えですが、これに加えて、「(孫オーナーの)ルールどおりと言うなら、手続きもルールどおりにやってもらいたい」と決議に至る手続きに不満を増幅させています。

     協約上、オーナー会議の議案はオーナー会議開催日の3週間前までに明示することが義務付けられ、あらかじめ通知された事項以外の議決を認めていない、ということですが、阪神サイドによれば、今回の保証金の話は、オーナー会議2日前の実行委員会で、阪神の野崎連盟担当が各球団に統合形態を説明しただけで、実質審議はされず、この議案をオーナー会議に諮る旨の通達は事前になかったということです。(7月18日日刊スポーツ)

     ところで今春、西武球団のオーナー企業がコクドからプリンスホテルに代わった際は、「グループ企業内での再編の問題」として預かり保証金は免除されています。ところが、西武球団のオーナー企業の変更は、西武グループの再編にともなうものですが、西武グループの再編自体が、西武グループの「堤義明氏」から「みずほグループが主導する西武ホールディングス」への実質的な保有者の変更です。単なる「グループ企業内での再編の問題」ではありません。

     また今回は、阪神電鉄株の過半数を、阪急HDが握り、阪急HDが阪神電鉄を実質的に吸収する形になったわけですが、もし、村上ファンドがそのまま阪神電鉄株の過半数を握り経営権を取得していたとしたら、オーナー会議はどういう結論を出したでしょうか。村上世彰氏に保証金を求めたでしょうか。村上氏は、それに応じたでしょうか。村上氏のことですから、タイガースを売却するか、裁判に訴えてくるでしょう。

     NPBに加盟しているのは株主ではなく球団です。株主は株を自由に売却する権利を持っています。保証金を払い、球団の発行株式の51%を保有していたA社が、株を一部売却し、A社40%、B社30%、C社30%になったとき、保証金はどうなるのでしょうか。

     B社とC社が投資会社などで、A社が実質的に経営権を握っていれば、保有者の変更には当然当たらないでしょう。ところが、B社とC社が手を握るとB・C社で60%の株式を握り、球団の経営権を握ることができます。このときは、実質的な球団保有者の変更ということで、A社の保証金25億円は没収、B社とC社には新たに保証金を含む30億円の支払いが求められるのでしょうか。

     そもそも、既存球団の単なる株主変更に金銭を求めることにしたため、おかしな話になってしまったのです。馬鹿げたルールと知りながらも、ルールに従って30億円を払ったのが、ソフトバンクの孫オーナーです。孫オーナーが阪神の保証金免除に強硬に反対するのは、当然の成り行きです。



     ベースボール・ビジネス52 ポストシーズン・ゲーム


     ようやく、セ・パの話し合いがまとまり、来季から、セ・リーグもプレーオフを実施することが決まったようです。交流戦試合数でセ・パが対立し難航していたポストシーズン・ゲーム問題で、両リーグ代表者が8月23日、交流戦は24試合とする方向で合意、9月4日の実行委員会で決議されるもようです。レギュラーシーズンの勝率1位を優勝チームとし、プレーオフは、リーグ・チャンピオン決定戦ではなく、日本シリーズ出場決定戦という位置づけになります。

     プロ野球協約では、日本選手権シリーズ試合(日本シリーズ)はコミッショナー管理とされ、セ・パ各リーグが主催する連盟(リーグ)選手権試合とは区別されています。今季のパ・リーグ・プレーオフは、パ・リーグ・チャンピオンを決める連盟選手権試合ですが、来季からは、レギュラーシーズンの勝率で連盟選手権(リーグ・チャンピオン)を決めることになるので、プレーオフは、現行の連盟選手権試合ではなくなることになります。

     ちょっとここで話を変えます。このメルマガでは、なんども、プロ野球ビジネスの基本は、リーグ戦興行共同体と言ってきました。それは負ければ明日のないノックアウト式のトーナメントでは、球団経営は成り立たないからです。ところが、それでは見る側にとってリーグ戦の方がトーナメントより面白いのか、というと、そういうことではありません。

     負ければ明日のないトーナメントは、負けても明日の試合があるリーグ戦に比べ、勝負のという点では格段の面白さを持っています。ただし、勝負というのは、こだわりすぎると、勝利至上主義、結果主義となり、野球という競技が本来持っている楽しさ、面白さを見失わせる恐れがあります。

     そこで、勝負と競技の面白さをビジネスとして両立させようというのが、リーグ制のレギュラーシーズンに対するノックアウト制のポストシーズン・ゲームです。レギュラーシーズンでは、勝者へのハードルを低くし、競技本来の楽しさ・面白さを味わってもらい、ポストシーズンでは、勝負の緊張感を堪能してもらおうというものです。

     ここで注意しなければならないことは、あくまでも球団ビジネスの基本はレギュラーシーズンであるリーグ戦であり、ポストシーズンはあくまでも選手やファンへのボーナスだということです。球団は、翌シーズンの年間予約席やグッズの売上で稼げばいいのです。

     なぜこのようなことを言うかといえば、ポストシーズンの球団収入の比重が大きくなると、ポストシーズンに進出した球団と進出できなかった球団との間に格差が生まれ、順位の固定化さらには競争の喪失、球団財政の悪化といったプロ野球ビジネスにとって致命的な結果を生む恐れがあるからです。

     極端な例ですが、レギュラーシーズンの収入を50、ポストシーズンの収入を50と仮定し、A,B2球団のうち1球団だけがポストシーズンに進出できるとします。ポストシーズンが初めて導入されました。コストに比例してポストシーズンに進出できる確率が高くなると仮定しますが、その年A,Bは同じ60のコストをかけ、たまたまAがポストシーズンに進出し、Bは進出できなかったとします。

     するとAは、ポストシーズンで50の収入を得ますから、50−60+50=40の利益を得ます。ところが、Bは50−60=△10の赤字です。翌年、Bが収支を均衡しようとするとBがかけられるコストは△10が繰り越されて50−10=40となります。

     一方、Aは60のコストではポストシーズンの進出がぎりぎりだったので、70のコストをかけたとします。これでも、ポストシーズンに進出すれば、レギュラーシーズンと合わせて100の収入が得られますから30の利益を得ることができます。前年からの繰越分と合わせればAの利益は70になります。

     かけたコストはAが70で、Bは40。前年、ポストシーズン進出の確率がA,B同じだったのが、次の年にはAは当確、Bは絶望的、といった具合に勝ち組、負け組が固定化して行く危険性をもっています。

     さらに次の年、Bがポストシーズン進出をかけて80のコストをかけたとします。これに対し、Aは90のコストをかけて対抗したため、Bはポストシーズンに進出できなかったとします。するとBは△30の大赤字となり、経営危機に見舞われることになります。また、Aもポストシーズン進出のために高コスト体質になり、収益を悪化させる危険性もあります。

     プロ野球協約166条では、連盟選手権試合の収益の処分方法は、いかなる場合でも、試合の勝敗による処分は禁止されています。これは、プロ野球が興行共同体であることを示したものですが、ポストシーズンに進出できるか否かで、収益に格差が生じるのであれば、これは実質的な試合の勝敗による収益の処分ということであり、協約の趣旨に反するように思われます。

     来季のセ・パ統一ポストシーズンのレベルでは、ポストシーズンでの収入増では、球団格差を生む恐れは少ないと思われますが、プレーオフの位置づけが、日本シリーズ出場決定戦となるのであれば、日本シリーズと合わせて、コミッショナー管理とするのが本来の姿かと思われます。

     ただし、新聞報道によればセ・パ統一形式によるポストシーズン・ゲーム開催となっていますから、実際は、セ・パの連盟主催試合として、プロ野球協約が変更される公算が高いと思われます。また、ポスト・シーズンという用語は、協約173条でシーズンオフのことを指しているので、用語の整理も必要になると思われます。


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