ベースボール・ビジネス by B_wind

    ベースボール・ビジネス16 プロ・リーグとビッグクラブの軋轢

    ベースボール・ビジネス17 さまよえるパブリック・ビューイング

    ベースボール・ビジネス18 社長解任

    ベースボール・ビジネス19 社長解任(その2)

    ベースボール・ビジネス20 GM(ゼネラル・マネージャー)



     ベースボール・ビジネス16 プロ・リーグとビッグクラブの軋轢


     プロ・リーグは、リーグ戦を興行する共同体ですが、すべての球団が共同体意識をもっているというわけではありません。

     大都市というビッグ・マーケットをフランチャイズとした球団(ビッグクラブ)とスモール・マーケットである中小都市をフランチャイズとした球団の財政格差は、単なるフランチャイズ・システムでは補完することはできません。通常、強豪といわれる球団は、読売ジャイアンツしかり、ニューヨーク・ヤンキースしかり、大都市に存在するビッグクラブです。

     人口格差以上に深刻化させているのが放送メディアの存在です。放送メディアのマーケットには境界がなく、フランチャイズ・システムによる棲み分けは機能しません。このため、放送メディア・マーケットでは、各球団のマーケットが競合し、リーグによる統制がなければ自由競争ということになります。自由競争といえば、聞こえがいいのですが、実際には、大都市を背景にしたビッグクラブによる市場支配が、進行します。

     以下、ヨーロッパ・サッカーにおける放送メディア・マーケットを題材に、リーグとビッグクラブの関係を見てみましょう。

     イタリア・セリエAのテレビ契約は各クラブの個別契約ですが、実際は、北部のビッグクラブ・グループと南部の中小クラブ・グループがグループごとに有料テレビ局と契約しています。ところが、去年のシーズン当初、サッカーバブルの崩壊の影響で、テレビ局が、南部の中小クラブ・グループの放映権料を値切ったため、これに反発した中小クラブ側が公式戦をボイコットしたため、シーズン開幕が2週間延びた事件がありました。この事件は、ビッグクラブが中小クラブにレベニュー・シェアリングすることで決着しました。

     フランス・リーグのテレビ契約は、リーグが一括契約し、それを加盟クラブに分配しています。今年3月、この分配金を巡り、フランス屈指のビッグクラブ、オリンピック・マルセイユとリーグが対立しました。マルセイユの主張は、全試合の3分の2を生中継しているマルセイユと1試合しか中継されないチームの分配金がほとんど変わらないのはおかしい、というものです。マルセイユは40〜50億円の損害を受けていると主張しています。もし、マルセイユの主張が通った場合、フランスも、イタリアと同じ、クラブによる個別契約になるだろう言われています。

     ドイツのブンデス・リーガも、フランスと同じく、テレビ局との契約はリーグによる一括契約ですが、この一括契約に、ドイツ屈指のビッグクラブ、バイエルン・ミュンヘンは、消極的でした。このため、一括契約を望んだテレビ局(キルヒ)は、リーグとの一括契約への同意を条件に、約27億円の資金をバイエルン・ミュンヘンに個別提供したことが、これまた今年の3月明らかになりました。もし、イタリアと同じクラブとの個別契約になった場合、独自に収益を上げられるのは、ブンデスリーガ18クラブ中、バイエルン・レバークーゼン・ドルトムントの3クラブだけといわれています。

     フランスとドイツは、リーグが共同体として機能していますが、ビッグクラブはこれに反発しています。イタリアでは、リーグが共同体として機能していません。このため、ビッグクラブと他のクラブとの間の格差が大きくなり、リーグ戦の運営さえままならない状態に陥ってしまいました。そして、その解決策は、レベニューシェアリングというリーグ共同体の機能でした。



     ベースボール・ビジネス17 さまよえるパブリック・ビューイング


     地域権と保護地域という言葉が、新聞紙面を賑わしています。地域権と保護地域というのはフランチャイズのことであり、各球団には、保護地域内における興行権を独占する権利が野球協約で保証されています。

     阪神タイガースは毎年夏になると高校野球に甲子園を明け渡すため、死のロードといわれる長期ロードを強いられ、お隣の大阪ドームで試合を主催する場合があります。今年は、19日から中日3連戦が予定されています。ところで大阪ドームは、大阪府にあり、その大阪府を保護地域としているのは大阪近鉄バファローズです。阪神タイガースの保護地域は兵庫県ですから、阪神が大阪ドームで試合を主催するときには、阪神は大阪近鉄に書面で承諾をとる必要があります。

     ところが今回、JTBが企画した埼玉スタジアム(8月26日、27日)でのPVに、阪神が、埼玉県を保護地域としている西武ライオンズに書面による同意をもらっていなかったことがわかり、協約違反と言うことで問題になりました。

     PVとはパブリック・ビューイングの略で、試合会場とは異なる会場で大型スクリーンに試合中継を写しだし、試合の雰囲気を味わってもらおうというもので、いわばバーチャル・スタジアム観戦のことをいいます。試合会場が満員で会場から溢れた人や遠隔地で観戦に行けなかったファンを対象に開催されます。ワールドカップでも話題になりました。

     パブリック・ビューイング(PV)は、テレビ中継を生のスタジアムで観戦しようというものですから、スタジアム観戦とテレビ観戦の双方の特徴をもった観戦形態といえますが、観客にとっては、スタジアム観戦であることには代わりありません。これが、今回のPVイベントが地域権侵犯だとコミッショナー事務局が見なした理由だと思います。プロ野球で本拠地球場以外でPVを開催する機会は滅多にありませんから、阪神球団側が、PVについての認識が甘かったのだでしょう。

     阪神のPVイベント自体は、8月20日の阪神・中日戦(大阪ドーム)が神戸スタジアムで、同26、27日の阪神・巨人戦(甲子園)が埼玉スタジアムで、計3試合開催が予定されています。この日程は阪神優勝のXデーになるのではと企画されたものですが、この26.27日の両日には埼玉県を保護地域とする西武がライバルのダイエー・ホークスと西武ドームで優勝争いをするかもしれないということで、西武側も強行です。日本中、トラ・トラ・トラですが、埼玉県はライオンの縄張りだぞというわけです。

     ところで、なぜ、サッカー専用スタジアムである埼玉スタジアムで、プロ野球のしかも阪神戦のPVなのかという疑問がでてきます。

     ご存じのように、埼玉スタジアムは昨年サッカー・ワールドカップの準決勝が行われた日本最大のサッカー・スタジアムですが、他のワールドカップ会場と同様、年間5億円にのぼる維持管理費の捻出が問題となっています。その捻出策が今回の阪神戦PVイベントとだったわけです。アイデアはよかったのですが、手続きの問題と日程が悪かったということでしょうか。

     首都圏の阪神ファンというのは、阪神タイガースにとっても、親会社の阪神電鉄にとっても、あまりおカネにならない存在です。阪神の試合は、首都圏で43試合もありますが、ビジターである阪神にとって入場料や放映権料は入りません。せいぜい、グッズの売り上げぐらいです。阪神電鉄は、関西の一私鉄に過ぎませんから、関西の巨人ファンのように球団は利益にならなくても親会社を通して利益を得るということもできません。そこで考えられたのが首都圏でのPVだったのだと思います。企画自体はJTBがだしていますが、阪神側も渡りに船だったと思います。

     今回、あらためてプロ野球にはフランチャイズ制度があるんだということが世間に知れわったと思いますが、私自身は、西武ライオンズ自体が、埼玉県全体の地域権を主張できるのか疑問に思っています。埼玉スタジアムがあるさいたま市は、埼玉県東部が生活圏なのに対し、西武ドームのある所沢は、埼玉県南西部と東京都北西部の生活圏に含まれるかからです。西武こそ、東京都という保護地域の地域権を侵犯しているではと思ったりします。

     最後に、テレビ放映権は、地域権に含まれないことが野球協約で明示されていますが、PVが地域権の中に含まれるのなら、テレビ観戦も地域権の中に含まれてもいいのではないかと思っています。8月26、27日の阪神・巨人戦が阪神優勝のXデーであるのなら、首都圏でも、テレビ中継は必ずあるわけで、西武にとって、そのテレビ中継のほうがPVより大きな影響があるのではないのでしょうか。Xデーの視聴率は、首都圏でも30%は行くのでは予想されます。



     ベースボール・ビジネス18 社長解任


     03年3月27日横浜ベイスターズ大堀隆球団社長が退任し、峰岸進球団顧問が新社長に就任しました。峰岸新社長は、昨年からベイスターズの親会社になったTBSの元プロデューサーで、「8時だヨ!全員集合」を手がけた人です。大堀氏は前の親会社マルハの出身でしたが、94年に球団社長に就任以来、球団改革を進め、98年には38年ぶりの優勝を実現しました。大堀氏は、02年は、親会社がTBSに代わったにもかかわらず、球団社長としてそのまま留任し、球団経営に当たっていましたが、昨年の森監督辞任に続き、最下位の責任を取る形で退任という形になりました。

     一方03年9月3日、オリックス・ブルーウェーブは、岡添裕球団社長の辞任と小泉隆司新社長の就任を発表しました。球団は、岡添氏の社長就任以来、イチローや田口などの主力の流出がつづき、さらに補強の失敗により4年連続のBクラスだった上に、ここ二年は連続して最下位に低迷していたことがありました。岡添社長の事実上の解任は、4月の石毛監督の解任に続くものです。新社長の小泉氏は、関連会社オリックス・インベストメントの社長で、オリックス・グループ内での人事異動の意味合いもあります。

     成績不振の責任をとって球団社長が交代するというのは、NPB(日本プロ野球組織)にとっては極めて珍しいことです。ただ、これも民間企業からすればおかしな話ですが、プロ野球がこれまでビジネスとして顧みられてこなかった証でもあります。そして、このおかしな世界にビジネス・チャレンジしたのが大堀氏であり岡添氏だったわけですが、両者は、プロ野球ビジネスに敗れたという次第です。

     このおかしなプロ野球ですが、両球団の置かれていた経営環境は大きく異なっていました。横浜ベイスターズは、セ・リーグに属し、巨人戦の放映権料や入場場料収入で球団経営は赤字を出さずにすむ状態でした。ただし、親会社であったマルハ(前大洋漁業)自体が再建途上にあったため、親会社からの支援は広告宣伝費という名目であっても期待できませんでした。横浜大洋ホエールズからの名称変更についても、親会社からの宣伝機関から独立採算のプロ野球を目指さざるを得なかった事情もあったわけです。

     独立採算を目指した大堀ベイスターズは、横浜スタジアムと横浜市という壁にぶつかります。横浜スタジアムについては、私のHPのコラムで紹介したように、市民の出資で、横浜市は資金を出すことことなく、市民の球場を手にすることができました。その建設資金を負担したのは、実質的に横浜球団でした。しかも、球場と球団との契約内容は、不当な内容でした。この契約自体は、98年で20年契約が切れ、契約を更新しているはずですが、改善されたという情報は入っていません。そこで、当「ぼーる通信2002/6/12」配信のプロ野球ビジネス15「都市とチームの結びつき」で紹介した大堀前社長の話ということになります。

    つづく



     ベースボール・ビジネス19 社長解任(その2)


     (前回の続きです)

     大堀氏が社長に就任するまで、球団の入場券の販売は、横浜スタジアムに委託されていました。これに驚いた大堀氏は、さっそく、入場券の販売権を球団に取り戻したそうです。球団にとって、広告収入と売店収入はあてに出来ませんから、収入源は、入場料収入と放映権料、それとライセンス収入だけということになります。放映権については、ベイスターズ・ソフトという会社を作って、テレビ放映の制作を球団自ら行うことにより、放映権を完全に売却するのではなく、高次利用を念頭においた体制を作っています。また、ライセンス収入の確保を目的に、ベイスターズ・サービスという会社も作っています。また、湘南シーレックスを作ったのも大堀氏です。大堀氏が社長になってから、やっとプロ球団としての体裁がとれたと言っていいでしょう。

     ところが、98年の球団優勝以降、親会社のマルハの経営状態はさらに悪化し、また、選手年俸もあがり始め手詰まり状態に入ってきます。巨人戦以外の放映権料とライセンス収入は、いくら増やしても、高騰する選手年俸をまかなうことはできません。入場料収入も、球場の収容人員は3万人と限られており限界が見えていました。そこで、起死回生策として考えられたのが横浜ドームでした。誤解されてては困るので説明しますが、大堀氏が要望したのは5万人収容の球場です。ドーム球場を望んだわけではありません。当時、地元経済界にあったドーム話に、増収を図りたかった大堀氏が便乗したのが真相だと思います。入場料収入を増やすには、球場のパイ(収容人員)を広げるしかなかったからです。結果的には、ドーム球場の頓挫、球団の売却、有力選手・スタッフの流出と退団、戦力補強の失敗により横浜ベイスターズの現状となっています。

     一方、オリックス・ブルーウェーブの場合、パ・リーグに属し、巨人戦の放映権料と入場料収入は存在しません。93年のFAとドラフト逆指名の導入により選手コストが高額化した結果、パ・リーグ各球団の親会社は、20億円から30億円の球団支援を余儀なくされています。状況は、オリックス・ブルーウェーブも他のパ・リーグ球団と同じです。ところが、オリックス本社にしてみれば、グループ内で赤字なのはブルーウェーブだけであり、なんでだという話になります。オリックスという親会社は、球団を単なる宣伝機関として捉えるのではなく、ひとつの企業として捉えています。ただし、あくまでもオリックス・グループの企業としてですが。

     採算をとるにはどうしたらいいのか。それには、コストを減らすことと収入を増やすことです。コストの大半は選手と監督・コーチの人件費です。外から見ると、70人の選手が本当に必要なだろうか、コーチング・スタッフの数が多すぎはしないか、海のものとも山のものとも分からない新人選手に何千万円の契約金を払うのはおかしくないか、といった疑問が湧きます。そして、これを実行したのが岡添球団社長でした。契約金ゼロ選手や選手・コーチの少数化です。実際には、これが、球団の弱体化につながった可能性が高いのですが、試みは評価すべきでしょう。

     岡添社長の最大の成果は、球場の管理権を手に入れたことです。神戸市から球場の管理委託を受けて、広告看板や売店収入などの収入手段も増えますし、球場使用に当たっての自由度が増したことが最大のメリットでしょうか。グラウンドの全面天然芝化やグラウンドレベルの観客席(フィールド・シート)などアメリカン・スタイルのボールパーク構想を掲げ、球場の改造を行ってきました。合わせて、年間予約席のディスカウント化も行い誰もが気軽に見られる球場をめざしています。といっても、いまのところ観客動員に結びついてはいませんが。

     大堀氏と岡添氏の実績は、評価すべきであり、決して無駄に終わらせてはならないことです。そして、新たに社長となった峰岸氏と小泉氏に新たなビジネス・チャレンジを期待することにしましょう。



     ベースボール・ビジネス20 GM(ゼネラル・マネージャー)


     プロ野球の球団も、他の会社と同じ組織構造をしています。例えば自動車メーカーが、製造部門と販売部門からなっているように、球団組織もベースボール部門とビジネス部門からなっています。ベースボール部門は、自動車メーカーの製造部門にあたり、スカウト・ファーム・一軍などからなります。同様に販売部門にあたるのがビジネス部門で、チケット販売やライセンス・放映権の管理、プロモーションなどを行う部門です。

     GMとは、メジャーリーグでは、一般に、前者のベースボール部門を総括する総責任者のことを指します。ベースボール部門の長であるGMは、いわば製造部門の長ですから、野球とビジネス双方に精通している必要があります。

     販売部門というのは、業種が異なっていても共通項が多いのに対し、製造部門では、業種特有の専門的な知識と経験が求められます。このため、メジャーリーグのベースボール部門の長には、野球についての知識と経験と才能をもった人がGMとして任命されます。これはなにもGMは、選手経験者でなければならないというわけではありません。

     実際、メジャリーグの選手出身のGMも、選手引退後MBAの資格をとってビジネスマンとしてのキャリアを積んできた人たちです。選手の獲得費用・育成費や年俸には巨額の費用がかかります。巨額の費用をかけてチーム運営するわけですから、GMには、野球だけでなくビジネス能力も要求されます。

     日本のプロ野球というのは、親会社の宣伝機関として位置づけられていますから、興行権を親会社や球場に委託しているケースが多々あります。この場合、球団といってもベースボール部門だけの単なるチーム運営会社に過ぎないことになります。そして、そのチーム運営についても、野球選手はビジネスには素人なのだからと親会社の出向者が経営のトップを占めることになります。

     ところが、親会社の出向者は、ビジネスでは玄人かも知れませんが、野球については逆に素人同然です。野球については素人なのですから、監督の意見を尊重して経営にあたってくれればいいのですが、権限も与えないでチームを監督に任せっきりで自分では何もしないというケースが多く見られます。

     最悪なのが、ビジネスも知らない、ましてや、野球も知らない親会社の一出向者が、「GM」を気取ってフロント主導のチーム編成を行おうとした場合です。メジャー・リーグではチーム編成は球団フロントが行っている、とばかりに、GM気取りで素人がチーム運営にあたっても混乱を招くばかりです。

     9月10日読売ジャイアンツ球団代表に読売新聞社経理三山秀昭氏が就任。三山氏は、早大を卒業後、1969年に読売新聞社に入社し、秘書部長、政治部長などを歴任。9月10日の産経Webによれば、渡辺恒雄オーナーは新代表について『野球の知識、理論に詳しい」と説明。阪神に大きく引き離された今季の戦いに強い不快感を示し、「編成などを新しいフロント機能に委ね、ただちに補強の調査に着手しないといけない。来季の優勝を目的に今回の人事を行った」と話したということです。

     ビジネスも野球も知らない人がGMもどきのことをやろうしたことが、原前監督の悲劇を生んだのだと思います。

     なお、9月26日オリックス・ブルーウェーブの小泉社長は、GMとして元阪神監督の中村勝広氏を招聘しました。GMとしては元ロッテの広岡氏についで二人目。中村氏には、ビジネス経験が足りません。


     第21回〜はこちら


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