クールジャイアンツ特別編 〜Cool Dynamite!!〜 by 慈恩美(現・高原成龍副編集長)

     クールジャイアンツ特別編 〜Cool Dynamite!!〜 by 慈恩美(現・高原成龍副編集長)


     読者の皆様、新年明けましておめでとうございます。

     このたびの年末年始は、いかがお過ごしでしたか?今回は大晦日の夜、3大首都圏にてそれぞれ大きな格闘技イベントが行われましたが、どれを観ようかと迷われたのでないでしょうか?
     そんな中、私は曙vsボブ・サップで話題になったK−1をナゴヤドームにてナマ観戦してきました。既にご存知かと思いますが、ボブ・サップが1R、KOで勝ち、曙のダウンシーンそのものが「Dynamite!!」という結果になったあの格闘技イベントです。

     ただ、みなさまの注目カードは曙vsボブ・サップであったと思いますが、プロレス大好き人間の私が注目した試合は、この試合の前に行われた中邑真輔vsアレクセイ・イグナショフ戦です。ですが残念ながら、この後にも書かせていただいたとおり、試合の内容は私が満足行くものではありませんでしたし、結果自体も、当日下された「中邑TKO負け」の裁定が新日本プロレスの抗議によって1月4日に「無効試合」として覆ることとなってしまい、後味が悪いものになりました。私としては、バカボンパパのように「これでいいのだ」とは正直思えない結末になったのです。

     その試合は、試合開始からずっと中邑がタックルでイグナショフを倒して寝技で押しまくる(ように見える)、という展開でした。
     結局、3R早々にイグナショフの十八番の膝蹴りが中邑のタックルのタイミングと合い、顔面にヒットして吹っ飛ばされたところでレフェリーが試合を止めたのですが、中邑がすぐに立ち上がったばかりに、場内のプロレスファンからと思われる罵声が飛び交う異常な結末になりました。
     そこで試合後、それを受け、日本プロレスの上井執行役員が判定を不服とし、主催者に抗議したためにこの試合は無効試合となったのですが、私はそのやり方に、どこか老舗団体の傲慢さを感じずにはいられませんでした。言い換えると、「新参者のK−1に対して、老舗の新日本プロレスが出る杭を打つようにやり込めた」という政治的なニュアンスが見え隠れしているように感じられたのです。

     中邑側の不満は、主に、

    1.レフェリーストップのタイミングが早すぎる
    2.レフェリーのグランドポジションにおける膠着ブレイクの判断のタイミングが早すぎる
    3.2Rで発生したイグナショフの4点ポジション(両手・両足がマットについた状態)における後頭部へのキック(体重差10kg以上の差がある場合、4点ポジションでの打撃は禁止されている)へのジャッジが警告1(イエローカード)でとどまった

     という3点ですが、ここで、これら中邑側の不満を自分なりに検証してみたいと思います。

     1.レフェリーストップのタイミングが早すぎる

     イグナショフの膝蹴りがノーガードの顔面に見事に当って吹っ飛ばされているのを見ると、レフェリーの平さんでなくともつい止めたくなります。中邑はすぐに立ち上がりましたが、それ以前の打撃で顔を腫らしていたので、あのまま続行してもう一度膝蹴りをもらっていれば間違いなく危なかったでしょう。それは、試合終了後のドクターの診察で「鼻骨亀裂骨折」という診断結果が出たことから考えても、妥当だったといえます。

     ちなみに、主催者の谷川プロデューサーが「(打撃が)もう一回当るまでやるのがプロレスラーだと思います(谷川さんが経営するFEGのオフィシャルサイトより)」というコメントを残されていますが、私は、この大会が残酷ショーの場ではない以上、レフェリーが危険回避のための最善の努力を尽くすのは当然だと思います。
     さらに、谷川さんは「新日本プロレスのIWGPのベルトをまいて、現役のチャンピオンのまま出て来てくれた中邑選手の気持ちを考えると、最後までやらせたかったですね(FEGオフィシャルサイトより)」というコメントも残されていますが、こういった、「プロレスラーだから例外を認めるべき」とも取れるような発言は、競技として確立されつつあるK−1を否定する事に繋がるだけでなく、K−1のリングがプロレスの価値観によって支配されるという状況を生みかねませんし、また、新日本プロレス側の圧力に簡単に屈しているようにも見えます。
     従って私としては、以上の点について、谷川さんには細心の注意を払って欲しいと願うばかりです。

     2.レフェリーのグランドポジションにおける膠着ブレイクの判断のタイミングが早すぎる

     このことについては谷川さん曰く、「プロモート側、イベント側、競技統括がまちまちの見解を持ってまして、意志の統一ができておらず反省しなきゃいけない点でした(FEGオフィシャルサイトより)」ということですが、私個人としては違和感を感じる事はありませんでした。

     つまり私にとっては、あの試合のレフェリーの平さんのブレイクのタイミングは「理解できる」ということです。平さんは、かつて前田日明が興したリングスで総合格闘技の試合をやっていた経験を持っていますが、この日のブレイクをかけるタイミングは、平さん自身が試合で会得した当時のリングスのものでした。リングスに限らず、平さんが現役時代当時のパンクラス(近藤有己が看板スター選手)やUWFインターナショナル(桜庭和志が入門した団体)など、プロレス雑誌でいうところの「UWF系」の団体でかけていたブレイクのタイミングは、この日の平さんと同じタイミングだったように思います。
     従って私は、まず、「膠着ブレイクが早い!」という抗議の前に、この事を理解する必要があると思います。

     また、試合を振り返ると、試合中の寝技は全部、中邑が上半身への間接技か絞め技に執着するあまり、ガードポジション(つまり、寝技で下になった選手が、両足で上の選手の胴をはさんで、コントロールできる状態)を取って下になっているイグナショフを攻めあぐねる(と見える)展開でした。そして私はその様子を見ながら、「ガラ空きなのに、なんで足関節を狙っていかないのだろう」と思いながら見ていました。
     ちなみに、この点については、新日本プロレスの上井執行役員が「中邑はあの状態から腕を狙って動いていた。あそこでブレイクされていたらどうやってプロレスラーが勝てるのか!?(FEGオフィシャルサイトより)」というコメントを残していましたが、そのこと自体は決して間違っていません。確かに中邑は腕を狙っていましたが、イグナショフはガードポジションで中邑を完全にブロックして、関節を取られないよう工夫していました。ただ、私から寝技に一日の長がある中邑には、もう一工夫してほしかったし、できたはずだと思うのです。
     おそらく、この時の中邑には、足関節を狙う事について、反対側の足(例:右足を取ったら左足、左足なら右足)で攻撃されることや、関節を取る一瞬のスキをつかれマウントポジション(馬乗りの状態)を取られてボコボコにされる、という考えが頭の片隅にあったのだと思います。しかし私は、それでも、狙おうと思えば足関節も狙えたはずだ、と思うのです。現に、当日試合をした須藤元気と成瀬昌由はそういう試合運びをしていましたし、そういう戦い方できっちり結果を出していました。しかしながら中邑は、それでも上半身に執着した事になります。そこが私としては不満の残る内容でした。

     こうなれば、中邑がイグナショフを攻めあぐねる(と見える)のは必定の流れで、平さんが現役時代の経験を元に「膠着ブレイク」をかけたのは、妥当だと思います。
     蛇足ですが、谷川さんからこの手の説明が無いのは、なぜか理解に苦しみます。

     従って私は、中邑は「オレは負けたと思ってない!」とむくれる前に、試合中勝利のチャンスを逃しまくったことを、もっと悔やんで恥じるべきなのではないか、と思うのです。

     3.2Rで発生したイグナショフの4点ポジション(両手・両足がマットについた状態)における後頭部へのキック(体重差10kg以上の差がある場合、4点ポジションでの打撃は禁止されている)へのジャッジが警告1(イエローカード)でとどまった

     これは谷川さんの側でも見解が別れたということなので、ルールの不備や見解が不一致という指摘を受けるのは仕方がないと思います。

     しかしながら、同じ新日本プロレスの成瀬は、対戦相手のノルキアに4点ポジションでのキックを認めて戦い、きっちり勝利をもぎ取りました。その成瀬の姿勢は、抗議の言葉を並べる上井執行役員に守られている感のある中邑とは対照的でした。

     失礼を承知で言うと、「反則が5カウントまで認められているプロレスラーが何言ってるんだ?」という見方も成り立ちます。こういったことも上井執行役員や中邑は、ちゃんと認識しているのでしょうか?ちょっと気になります。

     中邑はあの試合、判定に持ち込まれたら間違いなく勝っていたでしょう。しかし、文句を言わせず、すっきりと勝てるチャンスをことごとく逃し、イグナショフに打撃をもらいやすい展開にした中邑本人に落ち度が無かったかと言えば、私は「違う」と思います。重複しますが、当日同じルールでも須藤や成瀬は文句を言わせない内容で勝利しました。特に成瀬は相手に有利になりかねないルールを容認してなお、勝利しました。
     従って、そんな彼等らと比べてしまうと、どうしても中邑は「新日本プロレスを背負っている」という重圧に負けて、動きが硬くなって「しょっぱい」試合をしたように私には見えたのです。中邑はその4日後、1月4日の新日本プロレスの東京ドーム大会で、高山善廣と統一ヘビー級タイトルマッチをやりましたが、このときの中邑の執念と根性がみなぎった堂々とした戦いぶりをTVで観ていた私は、「なんであんなしょっぱい試合したのだろう?」と思わずにはいられませんでした。

     ただ、こういう中邑の気迫があったからこそ、上井執行役員は必死になって谷川さんに抗議したのではないかと思います。とはいえ、「無効試合」までの流れをみていると、繰り返しますが、どうしても「新参者のK-1に対して、老舗の新日本プロレスが出る杭を打つようにやり込めた」という政治的なニュアンスが見え隠れしているように見えます。また、谷川さんも簡単に、「無効試合」というプロレス的要素の強い裁定を下してしまったので、余計にそう感じます。

     この裁定が正しかったかどうかは、現在休養中の中邑が復帰してイグナショフと再戦するときに出るでしょう。この「しょっぱい経験」が、若きチャンプ・中邑真輔を新日本プロレスのロゴマークのような「獅子」に一歩でも近付けてくれる事を、一番星に祈る私なのでした...

     P.S. あなたのような強い気持ちと意志を持った責任感のある若者は、今の日本では貴重な存在です。
     頑張れ!真輔!怪我に負けるな、真輔!

    [参照URL]

    FEGオフィシャルサイト
    1,http://www.so-net.ne.jp/feg/database/20031231rist.html
    2,http://www.so-net.ne.jp/feg/report/20040104r_11.html


現連載

過去の連載

リンク