スポーツ風土記 by 一豊

    第16回 「2005・4・30 プロ野球四国アイランドリーグ 高知ファイティングドッグス VS 愛媛マンンダリンパイレーツ戦観戦レポート」

    第17回 「四国アイランドリーグ、スタートから1か月を振り返る。」

    第18回 「大森輝和選手・陸上世界選手権代表選考問題」

    第19回 「四国アイランドリーグ、後半戦スタート」

    第20回 「ヨーロッパ勢が台頭する大相撲」



     第16回 「2005・4・30 プロ野球四国アイランドリーグ 高知ファイティングドッグス VS 愛媛マンンダリンパイレーツ戦観戦レポート」


     4月29日、四国アイランドリーグが松山市の坊っちゃんスタジアムにて約7000人の観衆を集め、開幕しました。

     四国アイランドリーグは、四国4県それぞれに1チームずつ作られ、年間全180試合を行ない、優勝を争うリーグです。
     参加しているのは、高松市を本拠地とする香川オリーブガイナーズ、松山市を本拠地とする愛媛マンダリンパイレーツ、徳島市を本拠地とする徳島インディゴソックス、そして高知市を本拠地とする高知ファイティングドッグスの4チーム。それぞれのチームのメンバーは、将来MLBおよびNPB所属球団への入団を目指す17〜24才の若手選手によって構成されています。
     公式戦では指名打者制度が適用され、延長戦も行なわれません。
     私は、その開幕日の翌日である4月30日に、高知ファイティングドックスの本拠地である高知市営球場にて高知ファイティングドッグス(以下、高知FD)と愛媛マンダリンパイレーツ(以下、愛媛MP)の2回戦が行なわれたので、観戦に行ってまいりました。

     今回の試合が行なわれた高知市営球場は、両翼が96M、センターが121Mというまずまずの広さを持つ球場で、今年はプロ野球オリックス・バファローズがこの球場で春季キャンプを行なっています。
     球場施設についていえば、内野スタンドは背もたれのないベンチシートで、日差しを避けたい人はバックネット裏の放送席の下か、1,3塁側のカメラ台の下に避難するしかありません。また球場内には売店があるのですが、軽い食事やジュース、お菓子などが販売されていて、私がその傍らを通り抜けた際にはうどんや焼きそばの売上が多いなと感じました。それと、入り口にはリーグのグッズ販売の売店や協賛スポンサーからのドリンクサービスもあり、なかなか華やかでした。ただしトイレは主要球場でありながら小さく、少し物足りなかったです。
     私はこの日、1000円でチケットを買って球場に入りましたが、試合前にもかかわらず、GW中ということもあって、場内はたくさんのお客さんでごった返していました。この日の試合の有料入場者数は1720人でしたが(主催者側発表による)、中学生以下およびユニフォーム姿のお客さんについては無料で観戦する事が出来たので、無料で観戦していたお客さんも含めると、3000人くらいは入っていたものと思われます。

     この日は、高知FDの地元開幕戦という事で、アイランドリーグの石毛宏典代表も訪れ、試合前に挨拶を行ないました。また国歌斉唱は演歌歌手の経験もある高知FDの藤城和明監督が大役を務めました。正直言って昔、巨人戦での国歌斉唱でヒンシュクを買った中居正広よりもずっと歌声はよかったです。(笑)
     さらにそのあとは、その藤城監督と愛媛MPの西田真二監督とのガチンコ一打席勝負も行なわれ、ピッチャー藤城が西田を見事ショートゴロでさばいて勝利を治めました。

     さて試合です。この日の高知FDの先発は沢西泰明。一方愛媛MPの先発は木村吉久でした。


     ● スターティングメンバー

     愛媛       高知

     1 (三)林   1 (中)松本
     2 (中)大下  2 (左)梶田
     3 (指)中谷  3 (捕)宮本
     4 (左)金輪  4 (一)山本
     5 (一)荒木  5 (遊)杭田
     6 (右)今村  6 (指)中村
     7 (捕)梶原  7 (右)辻本
     8 (二)福西  8 (三)古卿
     9 (遊)金田  9 (二)土佐
       (投)木村    (投)沢西

     1回は、高知の先発沢西が三人のバッターを内野ゴロに打ち取る一方、愛媛の先発木村がいきなり三者三振に高知のバッターを切ってとり、それぞれ対照的ではあるが、最高の立ち上がりを見せました。
     試合が動いたのは3回裏。この回1アウトから2番梶田宙(ひろし)が、レフト前ヒットで塁に出ると、3番宮本裕司の打席で二盗、三盗を続けて成功して1アウト3塁。この絶好の場面で、宮本がレフトへ先制のタイムリー二塁打を打ち、高知が1点をリードしました。この先制点はタイムリーを打った宮本も見事でしたが、直前に梶田がクイックモーションのスキをついて三塁に盗塁したことが活かされたプレーだったと思います。
     しかしその直後の4回表、愛媛も反撃し、2番大下(おおしも)敦司がセンターオーバーの三塁打を打つと、1アウト3塁から4番金輪圭祐(かなわよしひろ)がレフトへ大きな2ランホームランをマークし、たちまち逆転。更にその裏には高知の5番杭田(くえだ)孝平がレフトへソロホームランを打ち返し、得点を2−2へと戻して、試合はシーソーゲームの様相となりました。

     そして前半の5回終了後、グラウンド整備の間、球場内では軽快な音楽に乗って高知FDの球団マネージャーである平岡美香さんの司会でゲームコーナーが行なわれ、場内のお客さんが参加者の奮闘ぶりを見ながら、歓声を上げていました。試合中にこういったアトラクションを行う事で試合をより盛り上げようとする努力は、ずっと続けてほしいと思っています。

     さて、ゲームは後半7回裏の高知の攻撃。愛媛のピッチャーは木村に代わって2番手の木谷智明。この回の先頭バッターは、楽天の広橋公寿コーチの息子さんで岩隈久志投手を義兄にもつ広橋貴寿(たかひさ)でしたが、この広橋がレフト前にクリーンヒットを放ち、ノーアウト1塁。その後フィルダースチョイス、送りバントの後、2アウト2,3塁の場面で4回にホームランを打った杭田に打席が回ってきました。そして抗田はファンの期待に応え、見事レフトへのタイムリーヒットで二者を返し、結果高知が4−2と勝ち越して、勝負の行方を決めました。
     その後、高知は8回にも9番土佐和広のタイムリーでダメ押しの1点を取り、投げては6回から2番手の岸健太郎、8回からは抑えの赤井志郎がそれぞれ無失点に抑え、5−2で地元開幕戦を白星で飾りました。

     この日は四国内のケーブルテレビで試合の模様が放送される事から、試合後にはヒーローインタビューが行なわれ、ホームランを含め3打点をマークして大活躍した杭田孝平が、お立ち台に上がりました。また、杭田選手のご家族の方がチームにバスを寄贈した上、親族・知人などが地元岡山から多数球場に駆けつけたこともあったので、彼にとっては生涯忘れられない嬉しい試合となったに違いありません。

     試合終了後には、球場を出る観衆の人たちを選手全員が見送るパフォーマンスが行なわれ、本当に温かいファンサービスをやっているなと感じさせてくれました。そして私が広橋選手に、「お兄ちゃん(岩隈投手)に負けるな!」と声をかけると、彼ははにかんだ笑顔を見せてくれました。

     今回の試合は開幕したばかりということでたくさんの観衆を集める事が出来ましたが、今後は選手たち自信が技術を高める事によって、実力でお客さんを呼べるようなリーグになってほしいと私は思っています。また、ファンサービスのことについていえば、少年野球教室や市民とのふれあいイベントなどによってファンの裾野を広げる事が出来れば、この四国アイランドリーグは成功するのではないかと私は感じました。
     とりあえずは地元のファイティングドッグスに、優勝争いの出来るチームになってほしいと思っていますが、それよりも、このリーグから将来、より多くの選手たちがドラフトで指名され、大舞台で活躍をしてくれる事を、私は何よりも期待しています。



     第17回 「四国アイランドリーグ、スタートから1か月を振り返る。」


     プロ野球に所属しない選手たちが技を競い合い、腕を磨く場である独立リーグとして今年スタートを切ったわが地元の四国アイランドリーグも、4月29日に開幕してからもう1か月あまりが経ってしまいました。
     そして、愛媛マンダリンパイレーツ、香川オリーブガイナーズ、徳島インディゴソックス、高知ファイティングドッグスの各チームは、試合を経験するごとに、それぞれの持ち味を発揮しながら、徐々に実力をつけてきております。また、ペナント争いについていえば、5月終了時点で高知が頭一つ抜け出し、トップに立っている状況です。

     それからこの四国アイランドリーグ、経営の面から考えてみますと、今のところは順調な滑り出しといえるのではないかと私は考えております。
     リーグを運営する株式会社IBLJの石毛宏典代表は「1試合で800人の観客動員」を見積もっていましたが、5月を終了した時点では、平均有料入場者数は約1600人と予想以上の成果を挙げています。ただ、チームそれぞれに分けて見てみますと、愛媛と香川の平均がそれぞれ2000人を超えているのに対して、徳島は平均約1000人、高知に至ってはボーダーラインギリギリの平均約870人にとどまっています。特に高知の場合、リーグ成績ではトップに立っているにもかかわらずこの現状というのは、なぜだろう、と不思議に思われる方々も少なくないのではないかと思いますが、いかがでしょうか?

     ちなみに高知の平均観客数がなぜ伸び悩んでいるかという事を私なりに考えてみますと、他の3チームには地元出身の選手が一人以上在籍しているにもかかわらず、高知には地元出身の選手が全くいないので、地元へのアピールが足りなくなってしまっているのではないでしょうか。こういう地元密着でチームを運営していく場合、チームの歴史や物語が見えてこないと、観客としては共感しにくいし、ファンにもなりにくい。したがって、甲子園大会などを通して地元の支持を集めた選手を一人でも獲得することが、今後のこのチームの課題になってくるような気がします。
     また、第7回でも触れましたが、高知市の中心部から高知市東部球場や県営春野球場といった主要球場へ向かう交通アクセスが決して良いといえない事が、観客動員の面で少なからず影響しているのではないでしょうか。

     それから曜日ごとの観客数の面で考えてみますと、これは全てのチームにもいえることですが、土日、祝日の試合では1500〜4000人ほど集める事が出来るものの、平日動員できるのはおおむね400〜1000人ほどと、決していい数字とはいえません。ナイター設備のある球場を持っている愛媛や香川では、平日でも、会社帰りのサラリーマンなど1000人ほどの観客を動員できる時がありますが、ナイター設備の球場が一つもない高知や、設備があってもナイターを行なう照明の明るさが足りない徳島では300人くらいしか集まらない事もあり、二極化が進んでいるといわざるを得ないのではないでしょうか。
     それに加え、高知以外の県は、関西地方や瀬戸内地方の方々も海を隔てて容易に観戦できる環境にあるのですが、高知の場合は本州から本四架橋を渡っても、さらに四国山地を超えていかないと目的地に着かないことから、時間的・金銭的なハンデがあり、なかなか県外からの観客を集めにくくなっています。
     石毛代表は近い将来、全てのチームの経営を独立採算制に切り替える事を計画しているわけですが、今後各チームがどういった形で観客動員を増やして収益を上げるかを考えなくてはなりません。今はリーグが始まったばかりということで、物珍しさも手伝って観戦にやってくる人も多いのですが、今後公式戦が進むにつれ、高校野球の地区予選で常打ち球場を明け渡す夏休みの時期、各県の地方球場での試合にてどれだけの観衆を集められるかが、リーグにとって、そして各チームにとっての正念場となるのではないでしょうか。

     またメディアの面で考えてみますと、現在公式戦のテレビ中継を四国各地のケーブルテレビ局で放送したり、NHKテレビの四国地方向けのニュースで試合結果を伝えるなどの努力はしていますが、私は、これだけでは物足りないと思います。
     その理由は、ケーブルテレビでの試合の中継数が月に2,3試合程度と決して多いわけではなく、しかもその他の地上波では開幕戦の愛媛VS高知のみの中継(しかも途中打ち切り)にとどまっているのが現状だからです。今後リーグの知名度を上げていくためにはメディアの協力が不可欠とされるだけに、試合の中継数を増やしてもらう必要がありますし、地元テレビ・ラジオ局でも、もっとリーグについてPRしてもらう必要があるのではないでしょうか。

     一方、このリーグの発足は、地域の町おこしにつながっているところがあります。
     高知県土佐山田町の例で述べてみますと、この町にある土佐山田スタジアムは県内唯一の人工芝球場でありながら、これまで主に利用されたのは、毎年秋に行なわれたプロ野球のファーム教育リーグである「よさこいリーグ」、ならびに、四国6大学野球の秋季公式戦でした。しかし四国アイランドリーグのスタートによって、町の名前を売り出すチャンスだ、と土佐山田町が全面協力を打ち出すと、シーズン前には高知Fドッグスが土佐山田スタジアムでキャンプを張り、その後同地で5月7,8日に行なわれた公式戦でも、2日間で合計約1300人超の観衆を集めました。
     それに加え、チームの独自スポンサーとして高知県内の農家が協力して「一俵入魂百勝の会」を発足すると、選手たちに対して百姓さんたちがスポンサーになってお米をプレゼントしたり、全国の個人・企業サポーターを通し、お米で作ったアイスクリームなどオリジナルの米製品を販売して、その収益金を独立リーグに寄付してくれるようになりました。
     こういう地道な活動はチームや町の活性化に一役買っており、今後は、これに続く動きが起きてくれるのではないかと私は期待しております。

     最後に、こんな試みが行われていることも付記しておきます。5月から各チームごとに監督・コーチが評価した選手の格付け結果を公表することが決まり、さっそく公式HPやスポーツ新聞などで発表されましたが、これはアメリカのマイナーリーグなどで採用されている格付け制度を取り入れようということでして、球場に足を運ぶファンにとっては、誰が今後リーグで活躍が期待される選手であるか分かる一方、選手一人一人の競争意識を高めたり、シーズン途中で戦力外になるかもしれないという危機感を持たせることができたりするので、私もこの石毛代表のプランを評価したいと思っています。

     今後、アイランドリーグはさらにチーム同士の順位争いが熱を帯び、選手たちも日米ドラフト会議に指名されることを目指して技術のレベルアップを図ることになりますが、ファンである私自身も更にこのリーグを盛り上げる事が出来るように、1試合でも多く球場に足を運んで、応援をしていきたいと思っています。



     第18回 「大森輝和選手・陸上世界選手権代表選考問題」


     読者のみなさまこんにちは。このところ数回にわたって、いま日本球界で話題の四国アイランドリーグのことについてお送りしてまいりましたが、今回は、ここ最近、私の地元高知県内で大きく取り上げられているスポーツの話題についてお送りしていきたいと思います。
     その話題とは、今年8月にヘルシンキで行なわれる陸上の世界選手権の男子トラック長距離部門の代表選考における、実業団チーム所属・大森輝和選手についての問題です。

     大森選手は香川県の出身で、中央大学卒業後、高知のくろしお通信に入社し、男子陸上部の選手として主にトラック長距離部門で活躍、今年1月広島で行なわれた全国男子駅伝では高知県チームの3区一般区間(8.5キロ)を走り、この区間においてなんと29人を抜き去る活躍で、2年連続の区間賞を獲得しました。女子マラソン世界選手権代表の大島めぐみ選手のご主人でもあり、ハーフマラソンで主に活躍している大島健太選手と共に、チームの中心選手としてその屋台骨を支えています。
     また、世界選手権の代表選考にあたっては、大森選手は男子1万メートル種目にエントリーし、昨年の記録会にて世界選手権の代表派遣標準A記録である27分49秒以内をクリアする27分43秒94のタイムをマークしたので、今年6月に行なわれる陸上日本選手権の同種目で優勝すれば、自動的に代表内定することになっていました。
     ちなみに代表選考の記録について補足しますと、代表派遣標準記録には各個人種目ごとにA標準記録とB標準記録とがあり、A標準記録をマークしている選手がいた場合には1か国につき3人まで世界選手権に出場させることが出来ますが、B標準記録をマークした選手しか出なかった場合、1人しか代表に選ばれないのです。したがって、A、B両標準記録をクリアした選手が出なかった場合、その種目の代表派遣者はゼロとなります。

     そして、大森選手が代表内定に王手をかけている状況下、日本選手権の男子1万メートルが6月5日に行なわれたのですが、このレースで大森選手は28分10秒97のタイムで2位に終わり、トヨタ自動車九州所属の三津谷裕選手が28分9秒89のタイムで優勝しました。しかし三津谷選手のこのタイムは、標準A記録どころか、28分6秒以内の標準B記録にも及ばないタイムだったのです。
     そこで私は、日本選手権の男子1万メートルで優勝はできなかったものの、世界選手権代表は大森選手で決まりかな、と思っていました。というのは、今回日本陸上競技連盟(以下、陸連)が示した代表選考基準の序列の上位に「標準A記録クリアと日本選手権入賞の両条件を満たして、世界選手権での活躍が期待される。」という項目があったからです。三津谷選手は昨年の記録会にて28分0秒23のタイムで標準B記録はクリアしていたのですが、A標準を満たした上に日本選手権でも三津谷選手に小差の2位に入った大森選手にはかなわないだろう、と私は考えていました。
     ところが、レースの翌日に行なわれた陸連の代表選考会議では、本来上位とされていた大森選手が代表に選ばれずに、日本選手権で優勝した三津谷選手が代表に選ばれるという私の予想を根底から覆す出来事が起きました。今回選考に関わった沢木啓祐強化委員長は、選考基準の補足事項に記されていた「世界選手権の活躍が期待が低いとして、選ばれない事もある。」という項目を持ち出し、代表選考に関しては三津谷選手の日本選手権での勝負強さを評価したうえで、今後7月10日の南部記念陸上までにA標準記録をクリアする事を期待して代表に選んだ、というコメントを残したのです。つまり、今回陸連は「標準A記録クリアと日本選手権入賞の両条件を満たして、世界選手権での活躍が期待される。」という明確な選考基準を設定しておきながら、選考する段階になってから、序列が下位の「標準B記録クリアと日本選手権優勝の両条件を満たして、世界選手権での活躍が期待される。」という基準を上位にするというきわめて曖昧な措置を行ったので、私は、昨年あれだけ揉めて問題になった女子マラソンのアテネ五輪代表選考の反省が全く生かされていないなと思いました。もちろん陸上競技に詳しいファンのみなさん、あるいは三津谷選手を応援する地元の人たちに対する何の説明にもなっていません。
     私もTVでこの時のレースを観ていましたが、大森選手は負けたとはいえ、終始先頭集団にくっつきながら2位に入る粘り強さを見せており、優勝した三津谷選手にも引けを取らないレース展開を見せていましたから、決して勝負弱いということではないと感じていました。そんな大森選手に、たかが1つのレースの結果に基づいた勝手な解釈をつけるのは本当に納得がいかないことですし、また、事前に決めた選考基準を勝手に変更する事は決してフェアではありません。このような事態が引き起こされると、選考に際しては選ぶ側の好き嫌いや偏った理屈が大いに加味されているのではないか、と余計な憶測を呼びますし、決定を下した当事者のみなさん以外の理解を得ることはまず無理なのではないでしょうか。

     そして、この決定に到底納得の行かないくろしお通信陸上チームの松浦忠明監督と高知陸上競技協会は6月9日、日本陸連に対して今回の決定の完全撤回を要求し、その回答如何によっては日本スポーツ仲裁機構への異議申し立ても考えていたようですが、その後これを受けた陸連は臨時理事会を招集し、新たな決定を行いました。
     三津谷選手の代表決定を白紙にし、改めて大森、三津谷の両選手に絞った上で、7月11日までに三津谷選手が標準A記録をクリアすれば2人とも代表にし、もしもそれがかなわなかった場合は記録会の同じレースで両者が対戦、勝った方を代表にする、などの新しい選考基準を設けて代表を選びなおす事にしたのです。その結果、6月29日に北海道深川市にて行なわれたホクレン中・長距離チャレンジ第4戦の深川大会の男子1万メートルには三津谷選手がエントリーし、27分41秒10の標準A記録を突破するタイムをマークして前者の条件を満たしたため、見事2人とも世界選手権の代表に選ばれることになったのでした。

     しかしながら私は、三津谷選手のがんばりには大きな拍手を贈りますが、今回の陸連の対応については非常に大きな怒りを覚えました。せっかく事前に明確な選考基準を定めたにもかかわらず、直前になって勝手に選考基準を変更した対応のまずさをどう考えているのかは知りませんが、高橋選手の問題のときの反省がまったく活かされていないのではないかと感じたのです。これでは、各方面から陸連が批判を受けるのは致し方ないのではないでしょうか。あのとき私は、女子マラソンの高橋尚子選手のようにコロコロ変わる代表選考の基準によって、それに振り回される犠牲者を作らないでほしいとこの連載の中で述べましたが、果たして地元の新聞の報道によれば、一度代表から落選した事によって大森選手は目標や気力を失い、失意の毎日を送ったとのことです。また、三津谷選手にしても代表が白紙になった上に改めて記録に挑戦しないといけないこととなり、無理な調整を行う事になってしまったと思われます。これでは選手のコンディション調整やモチベーションの維持もおぼつきませんし、選手のみなさんに過重な負担がかかってしまいます。
     したがって私はこの一件を機会に、陸連のみなさんには、選手・コーチならびにそれ以外の方々に対してこれまで以上に明確な選考基準の情報公開を行い、また、選考する委員のみなさんにも、厳正で公平な代表選考を行っていただきたいと考えています。

     最後に、大森・三津谷の両選手には、8月の世界選手権で好成績を残す活躍をしてくださることを心より期待しています。



     第19回 「四国アイランドリーグ、後半戦スタート」


     四国アイランドリーグは7月30日より後半戦が始まり、猛暑の中、日米プロ野球機構の所属球団へのドラフト指名を目指す選手たちが技と腕を磨きあいながら、それぞれの目標に向かって日々奮闘を続けています。

     リーグ戦は7月10日までの前半戦を終わった段階で高知ファイティングドッグスが19勝12敗5分けで首位に立ち、以下香川オリーブガイナーズ、徳島インディゴソックス、愛媛マンダリンパイレーツの順で前半戦を終了しました。
     序盤は高知が、自慢の黒潮打線がつながり、頭一歩抜け出す形になっていたのですが、徐々に各チームが戦力を立て直すにつれてそのゲーム差が縮まり、8月7日の公式戦を終えた段階では香川と高知が勝率5割5分3厘でピッタリ首位に並び、それを1ゲーム差で徳島が追いかける展開となりました。

     四国アイランドリーグでは6月以降、選手の入れ替わりが行われたり、あるいはリーグを盛り上げるための取り組みがたくさん行なわれたりしております。
     まず選手の入れ替えの面でみてみますと、後半戦の開幕前にケガなどで契約が保留された4人の選手、ならびに、リーグを戦うのに実力が及ばなかった5人の選手に対して戦力外通告がなされ、彼らは契約解除となりました。
     アイランドリーグでは選手たちがそれぞれ所属しているチームを勝利へ導く活躍を観客に見せることのほかに、若手選手の育成、さらにリーグの有力選手が日米ドラフト会議でドラフト指名されることが目的とされてはいますが、リーグ開幕後3か月ちょっとで9人の選手が戦力外通告されたことから、私はリーグを戦い抜く厳しさと生存競争の非情さを深く感じました。今後、彼らがどういった道へ進むかはわかりませんが、この厳しい結果に腐ることなく、次のチャンスをものに出来るように頑張ってもらいたいと思います。

     また7月からは、その戦力外となった選手と入れ替わる形で5人の新入団選手が誕生し、高知FDでも2人の新入団選手が入りました。その2人の選手とは、1985年の春の選抜高校野球で全国制覇の経験がある伊野商業高校にてエースピッチャーとして活躍し、卒業後は橋上クラブという地元の軟式野球のチームに所属していた窪内悟人投手と、今年の夏の全国高校野球の代表になった高知高校出身で、東海大学在学中にマルユウBBC湘南という社会人クラブチームに在籍していた岩崎和也内野手ですが、この2人は6月に行なわれた地元出身選手対象のトライアウトに見事合格し、入団を果たしました。
     これまでの高知FDには地元出身の選手がいなかったことから、地元の野球ファンからあまりアイランドリーグに関心の眼が届かなかったよう気がしますが、今回地元出身の選手が2人入団した事によって、更にチームに興味を示してくださる方が増えてくれればいいと私は考えています。

     またアイランドリーグ所属選手へのプロ野球ドラフト会議による指名についての方針も発表され、今年開催されるドラフトに関してはリーグ所属の全選手が指名の対象となるものの、来年以降のドラフトについては、高校出身選手は高校卒業後3年経過後、大学出身選手は大学卒業後2年を経過しないとドラフト指名の対象にならないことが決まりました。
     ただ私見ですが、四国アイランドリーグは独立リーグとはいえ、プロ野球のリーグとして運営されており、しかも若手選手を育成しているリーグであることから、ここの選手たちが通常のアマチュア選手と同様にルールに縛られる事については、私としてはどうもすっきりしません。
     リーグでずば抜けた成績を残した選手は、日米プロ野球機構に属する球団に入団すれば即戦力として活躍できる可能性が大きいだけに、私は独立プロリーグの選手とアマチュア選手との明確な線引きをして指名のルールを見直すべきだと思うのですが、いかがでしょうか?

     観客動員やファンサービスの面で考えてみますと、リーグ全体でいえば6月に高松と松山で行なわれた試合に、タレントであり社会人クラブチームの茨城ゴールデンゴールズの監督である萩本欽一氏がリーグの激励に訪れ、その人気者の登場の効果もあってか、前半戦全72試合の平均観客動員数も開幕時に想定していた800人を超える、平均1216人の観衆を集めました。しかし高知FDだけで見てみますと、ナイター設備を持った球場が無いことと、雨天中止が多かった事から、高知主催の全19試合で平均757人という、所属4チームの中では最も低い平均観客動員数となりました。しかも前半戦全体の当日券の収入も売上全体の33%にとどまっている事から、今後は、これまで野球に関心を持たなかった人たちや球場に観戦に訪れたことがない人たちなどに対して一人でも多く球場に足を運んでもらえるように、更なる努力を続けていく必要があるのではないのでしょうか?
     ちなみに高知FDは8月に高知県内で主催デーゲームが12試合もあることから、観客動員の増加の為に色々なファンサービスやアイディアを考え、実行しています。その一つとして、7、8月に行なわれる主催ゲームの試合前に少年野球チームの選手たちが、坊西浩嗣コーチ、森山一人コーチから直接ノックを受けるプランが行なわれたり、リーグの公式戦が多く行なわれている土佐山田スタジアムの近くにあるパン屋さんが、チームを盛り上げる為に「ファイティングドッグ」というオリジナルのホットドックを作り、土佐山田スタジアム内で販売するなどのプランが行なわれているのです。

     また、6月からはチームを応援するための女性限定のファンクラブである「ファイティング娘。」が結成され、試合中の応援パフォーマンスのほか、選手・首脳陣に対して新米やウナギなど食べ物の差し入れを行なったり、選手たちに対して栄養学の講習会を実施するなど、様々な分野でのサポートを行なっています。
     更に徳島ISでは、6月に主審にボールを届けるゴールデンレトリバー犬の「ボールドッグ」がデビューし、地元のニュースとして話題になり、再登場も検討されているとの事です。こういった新しい動きが四国各地で多く行なわれることは私にとってとても楽しみであり、期待をしております。

     それから地域の町おこしの面で述べてみますと、高知FDでは先程も触れたように、土佐山田町でのオリジナルホットドックの販売や同所での公式戦で「土佐山田シリーズ」を設け、試合の合間に観客に対して新米や地酒、野菜などの地場産品セットが抽選で当たる抽選会を行なうなど、地道な取り組みを進めております。
     さらにこの8月には、高知県の東部地区では阪神タイガースのキャンプ地として知られる安芸市営球場や室戸マリンスタジアム、また西部地区でも四万十市(旧・中村市)にある四万十スタジアムや宿毛市営球場で試合が行なわれるため、これまで硬式野球の公式戦があまり行なわれなかった地域でも今回のアイランドリーグの試合を通じ、町おこしやチームの活性化が進むものとして期待されます。

     今年から始まった四国アイランドリーグもあと90試合ほどを残していますが、今後はどこのチームが初代の優勝チームになるかはもちろんのこと、さらにはドラフト会議に何人の選手が指名されるかが注目されます。そしてこのアイランドリーグによって地域の活性化が大きく進む事も、私としては大いに期待しています。

     なお私事ですが来月は諸事情の為、コラムの連載をお休みさせていただきます。10月のコラムをどうぞお楽しみに。



     第20回 「ヨーロッパ勢が台頭する大相撲」


     先日まで東京の両国国技館で15日間にわたって行なわれてきた大相撲秋場所。今回は結果的に、ただ一人の横綱である朝青龍が、13勝2敗の成績で通算14回目の優勝を果たし、なおかつ昭和の大横綱である大鵬以来38年ぶり史上2人目の6場所連続優勝を果たす快挙を成し遂げましたが、今場所の土俵を大いに盛り上げたのは、今場所新関脇に昇進したブルガリア出身で佐渡ヶ嶽部屋所属の新鋭・琴欧州だと私は思っています。

     琴欧州は今場所、初日から12連勝を果たし、初土俵から18場所目のスピード初優勝記録が達成されるものと期待されました。
     しかし、13日目の朝青龍との一番では、勝てば優勝というところで惜しくも敗れ、14日目には、デビュー以来最大のライバルである鳴戸部屋の新鋭・稀勢の里に対して不用意に引く相撲でまた敗れ、2敗だった朝青龍と並んでしまったのです。それでも千秋楽の本割りでは大関・千代大海を破ったのですが、朝青龍も同じく本割りで栃東を一方的な相撲で下したので、この朝青龍と優勝決定戦で再び対戦しましたが、残念ながら一方的な相撲で朝青龍にまた敗れ、優勝を果たす事は出来ませんでした。
     ですが、今場所は千代大海、栃東の2大関を下しての13勝という成績で敢闘賞を獲得し、先場所からの2場所通算で25勝を挙げる素晴らしい成績を残していますので、一躍大関候補としての名乗りを上げました。ちなみに、大関に昇進する為の目安としては、3場所連続で三役の座を維持し、なおかつ3場所共に勝ち越して、3場所通算で33勝以上の成績を残す事が最低条件と一般的にはいわれており、今場所、先場所共に最後まで朝青龍と優勝を争った琴欧州については、11月に福岡で行なわれる九州場所で11勝以上の成績を残す事が出来れば、大関昇進の夢を果たせられるのではないでしょうか。しかもこの場所では、彼の師匠である元・横綱琴桜の佐渡ヶ嶽親方が定年を迎えることから、最後の場所で是が非でも嬉しいプレゼントを送ってもらいたい、と私は思っています。

     それにしても今年の大相撲の番付をじっくりと見てみますと、関取衆の顔ぶれも数年前とは大きく変わり、今場所の42人の幕内力士のうち11人が外国出身の力士ということになっています。しかも彼らの強さから考えると、私は、大相撲の国際化は今後ますます進み、そのうち横綱・大関全てが外国人力士によって独占されるのではないかと思っています。
     ちなみにここ最近は朝青龍、旭鷲山を中心としたモンゴル勢も頑張っていますが、それ以上に琴欧州、黒海などといったヨーロッパ勢の台頭が本当に目立っていると思います。

     かつての外国勢といえば、高見山、小錦、曙に代表されるように、ハワイ勢の関取が長い間活躍をしていました。
     しかし平成に入ってからは、大島部屋から旭鷲山、旭天鵬が活躍したのをきっかけにモンゴル勢が台頭。更に黒海がヨーロッパ勢として初めて入幕を果たしてからはモンゴル勢とヨーロッパ勢の実力が拮抗して勢力を伸ばし、ハワイ勢は横綱・武蔵丸の引退によって、出身力士が一人もいなくなったのです。
     そして、こういったヨーロッパ勢が台頭してきたのは、モンゴル出身力士がモンゴル相撲を下地にしてきたように、ヨーロッパ出身力士は小さな頃からレスリングをやってきているので、彼らはそれを大相撲の世界に飛び込むための下地にしているのではないかと私は考えています。ちなみにヨーロッパ出身の関取衆の経歴を見てみますと、琴欧州にしても黒海にしても、誰もが少年時代からレスリングを経験しており、少年時代からレスリングの大会で実績を残し続けてきているのです。
     レスリングの種目の中には、上半身だけを攻撃するグレコローマンスタイルがありますが、相撲の攻め方もグレコローマンスタイルに似て、上半身主体の技が主体となっている為、にレスリングの技術を相撲に応用しやすいのではないかと思うのです。しかもハワイ勢が巨体を生かした相撲を取っていたのと比べますと、ヨーロッパ勢はレスリングのテクニックと共に出足の早い相撲を取りつづけている事が、その強みといえるのではないでしょうか?
     現在、日本相撲協会では入門を希望している外国人が多いことや、日本人力士の育成の面から、外国人力士は1部屋につき1人までの入門を認めるといった外国人枠制限を行なっていますが、伝統ある大相撲を世界に誇れるスポーツとして広げるためには、私は外国人枠制限を撤廃すべきだと思います。
     確かに大相撲は日本の国技であり、本来は横綱も日本人力士の中から誕生すべきだと私は思っています。しかし力士になりたい外国人たちは今でもたくさんいますし、また、その人たちの夢や希望の目を摘むようなことをしてはいけないのではないでしょうか。そういったことから私は、外国人の入門をフリーにして、才能ある力士にどんどんチャンスを与えるべきだと思っているのです。

     ただし、相撲文化は上下関係や相撲の稽古など独特のものがあるために、ある程度(1年半から2年)の研修期間を設けた上、適性試験に合格した新弟子については入門を認めるべきだと思いますが、いかがでしょうか?
     この制度が仮に認められ、外国人力士がどんどん力をつけてくると、極端な話ですが、関取衆全員が外国勢に独占されることもあるかもしれません。しかし私は、これによって、日本人力士が今まで以上に奮起してくれることを考えれば、それはそれであっても良いと思っています。
     今場所は、日本人力士の中では幕内では稀勢の里や玉乃島、十両では豊ノ島といった若手力士が活躍した場所となりましたが、来場所こそは日本人力士が久しぶりに幕内優勝を果たして、天皇賜杯を獲得することを心より願っています。


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