ベースボール・ビジネス by B_wind

    ベースボール・ビジネス46 プロ野球の株式

    ベースボール・ビジネス47 バッファローズ

    ベースボール・ビジネス48 WBCトピックス

    ベースボール・ビジネス49 今年こそ「祝、プロ野球誕生70年」

    ベースボール・ビジネス50 天罰が下った。



     ベースボール・ビジネス46 プロ野球の株式


     ライブドアへの強制捜査が入った1月16日、村上ファンドが阪神電鉄株をさらに買い進め、過半数に迫る43.37%に達していることが明らかになりました。元通産官僚の村上世彰氏率いる村上ファンドによる阪神電鉄株の大量取得が明らかになったのは、ペナントレースも終わろうとしていた昨年9月下旬でした。村上氏は、40%近い電鉄株を取得すると、電鉄に対し阪神タイガースの株式上場を迫りました。

     ところが、この阪神球団の上場案は、電鉄のみならず、ファンや世論の猛反発を受け、プロ野球オーナー会議でも、村上氏の後見人ともいわれたオリックスの宮内オーナーとTBS株の20%近くを買収しTBSに統合を迫っている楽天の三木谷オーナーを除く10球団の反対にあい、実現性は難しい状況になっています。

     球団(クラブ)の株式上場は、イタリアやイングランドのクラブチームで広く行われていますが、アメリカ人実業家に買収されたマンチェスター・ユナイテッドや株式公開で得た資金でスター選手をかき集めたが思うほどに収入が増えず親会社の経済的破綻とともに巨額の累積債務だけが残ったセリエAのラツィオなど、期待するほどの結果はでていません。

     投資ではなく会費に過ぎないファンによる株式保有は、本来、市場原理で動く株式公開市場と相容れないものがあり、人気に比べて収入の少ない球団株は、プロの投資家の餌食になる恐れがあります。

     また、くどいようですが、プロ野球というのは、各球団はグラウンドではライバルですが、ビジネスではパートナーというリーグ戦興行体であり、1球団の利益の最大化が必ずしも、プロ野球全体の利益の最大化につながるというワケではありません。球団個々の株式を公開した場合、球団個々の利益が優先され、プロ野球全体の利益が損なわれる危険性を、プロ野球は構造的に持っています。

     しかも、企業買収が日常茶飯事のM&A社会に突入しようとしているいま、一球団での株式公開は、リスクが大き過ぎるといえます。株式公開による資金調達であれば、編集長のMB Da Kiddさんが1998年から述べているように、NPB本体を株式会社化して株式を公開したほうがいいのではないかと思います。また、個々の球団も、一企業に頼るのではなく、株式を複数の企業に分散し、リスク回避を図るべきだと考えます。



     ベースボール・ビジネス47 バッファローズ


     フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』で「大阪近鉄バファローズ」を調べていたら、「バッファローズ」ではなく「バファローズ」になったのは、「表記が長すぎる」からという話が載っていました。

     大阪近鉄は、当初、近鉄沿線の伊勢志摩の特産品である「真珠」に因んで「パールス」と名乗っていました。当時、近鉄は「パールス」の名前のとおり、弱小チームでした。そこで、現役時代「猛牛」とあだ名された千葉茂さんを監督に迎えるにあたり、球団名も公募で「猛牛」に因んだ強い名前に変更されました。このときつけられた名前は「バファローズ」ではなく「バファロー」でした。

     『ウィキペディア(Wikipedia)』によれば、公募で一番多かった名称は「バッファローズ」だったそうですが、これでは「表記が長すぎる」と当時の球団幹部がいったため、二文字縮めて「バファロー」にしたということです。その後、千葉監督でもチームは弱かったため、千葉監督の辞任後、「これからは監督だけが猛牛になるのではなく、チーム全員が猛牛にならなければならない」という理由で複数形のバファローズ (Buffaloes)となった、ということですが、英語では群れのことを「Buffalo」といい、数匹の場合「Buffaloes」と複数形になるそうです。

     現在、バファローズの名称は、オリックス・バファローズに引き継がれていますが、オリックスが阪急ブレーブスを買収した1988年当時はオリックスは「オリエント・リース」と名乗っていました。オリエント・リースは、日本最初のリース会社ですが、1986年以降、他企業の買収による事業の多角化(リース部門だけでなく信託銀行・保険・証券・消費者金融)が進み、しかも、大手信販会社の「オリエント・ファイナンス(現在のオリエント・コーポレーション、略称オリコ)」と混同されることが多かったため、1989年にCI導入により社名をオリックス株式会社に改称し、球団名も「オリックス・ブレーブス(1989〜90)」と変更されました。

     球団買収は、「オリックス」という新しい名称の知名度アップに大きな効果をもたらしました。ところが、本拠地移転が伴わなかったため、球団は親会社名の「オリックス」ではなく古くから馴染みのある「ブレーブス」と呼ばれることが多かったといいます。そもそも、オリックスが阪急球団を買収するにあたり、ブレーブスという名称は買収後も残す約束になっていたそうです。1991年本拠地の神戸移転を期に、ニックネームを「ブルーウェーブ」に変更します。

     「ブルーウェーブ」は、「オリックス」よりも「表記が長すぎる」ため、球団の呼称として、ニックネームの「ブルーウェーブ」ではなく、親会社名の「オリックス」がよく使われるだろうという狙いがあったという話もあります。

     そして、大阪近鉄バファローズを吸収統合し、2005年から「オリックス・バファローズ」となりましたが、「バファローズ」の表記は短すぎるので、「オリックス・バッファローズ」にでも変更したほうがいいのではと、ふと考えてしまいました。



     ベースボール・ビジネス48 WBCトピックス


     WBC(ワールドベースボールクラシック)は、日本の優勝で幕を閉じました。WBCの話題いろいろです。
     まず、私にとって面白かったのが、準決勝に進出した4チームのうち3チーム(日本、キューバ、ドミニカ共和国)が島国だったことです。今回、WBCに参加した16チーム中、島国は他にプエルトリコと台湾のみで、あわせてもわずか5チームで、島国率は31%です。その5チームのうち3チームがベスト4に進出し、準決勝の島国率は75%。しかも、決勝戦は日本とキューバですから、なんと島国率100%です。偶然か、必然か、とにかく興味深い結果になりました。それに韓国は半島国で、大陸との間に北朝鮮があり、実質的に島国状態です。なお、オーストラリアは一応大陸なので、島国から除きました。

     一次リーグ、二次リーグを全勝で準決勝に進出したのが、韓国でした。韓国は日本に2連勝し、球場には「テーハミングッ」の合唱が鳴り響きました。
     この韓国躍進の秘密に、兵役免除があるといわれています。韓国では、2年間の兵役義務があり、スポーツで活躍すると、その義務が免除されことがあり、今回のWBCでも準決勝に進出すると免除になると言われ、実際そうなりました。
     韓国では、1950年におきた朝鮮戦争が未だ終結しておらず、停戦の状態が続いているのです。

     戦争と野球といえば、戦前の話になりますが、職業野球と呼ばれたころのプロ野球は、世間から道楽者のやるものだと見下される対象でした。
     それでも、多くの若者が職業野球に身を投じています。それは、兵隊にとられるまでの短い間だけでも、好きな野球をやりたかったからだといいます。日本職業野球連盟ができた翌1937年には、すでに日中戦争が始まっており、兵隊に行くことは死に直面することでした。ニッポンはいま、平和です。(参考文献:「阪神タ イガースの正体」井上章一著)

     オリンピックやFIFAワールドカップの成功を見て、MLBが野球版W杯を夢見ることは必然でした。野球版W杯の権威付けられるのは、野球の唯一の国際組織IBAFだけです。そのIBAFから世界大会の認定をもらうには、世界大会の国際基準である、IOC基準のドーピング検査を採用する必要がありました。
     ところが、IOCで禁止された薬物がMLBでは禁止されておらず、多くのメジャーリーガーが、薬物を使用してきたといわれています。今回、MLBは、WBCを世界大会としての認定をもらうため、IOC基準のドーピング検査を受け入れました。そこで問題になったのが、IOCの禁止薬物を使用している(いた)選手たち。彼らが、ドーピング違反に問われてはかなわない、ということで、今回のWBCでは、最初から、メジャーリーガーの強制招集はできない相談 だったいうことです。(参考資料:フリージャーナリストの石川とらさんのブログ)



     ベースボール・ビジネス49 今年こそ「祝、プロ野球誕生70年」


     ちょうど2年前の2004年、球界はプロ野球誕生70年を祝い、イベントや企画が催されていました。しかし皮肉にもこの年は、プロ野球誕生の時から抱えていた矛盾が噴出した年でもあったのです。

     70年前の1934年という年は、読売ジャイアンツの前身である大日本東京野球倶楽部が設立された年です。この大日本東京野球倶楽部が日本初のプロ球団ということでプロ野球誕生70年ということになったのですが、皆さんご存じのように、この大日本東京野球倶楽部は、日本初のプロ球団ではありませんでした。

     日本初のプロ球団は、1920年、東京芝浦に誕生した日本運動協会、通称芝浦協会です。次いで、翌1921年には野呂辰之助により天勝野球団が結成され、1923年プロ化宣言すると、同年6月21日現在の韓国ソウルで日本初のプロ球団同士による試合が行われています。

     ところが、同年9月に起きた関東大震災により、日本運動協会は解散、天勝野球団は自然消滅してしまいます。そこで阪急の小林一三は、一度解散した日本運動協会の選手達を引き取り、1924年宝塚運動協会を兵庫県宝塚に再結成します。これが三番目のプロ球団ということになりますが、1929年相手と期待したセミプロの大毎野球団が解散すると、あえなく解散となりました。

     その後を受けて、大リーグ選抜軍と対戦した全日本軍を母体に、1934年、日本で四番目のプロ球団として大日本東京野球倶楽部が誕生しました。
     ただし、宝塚運動協会は日本運動協会の系譜だとして、ひとつに数える人もいます。そうすると三番目ということになります。1935年には大阪野球倶楽部(大阪タイガース)も設立されますが、ここまでは、プロ野球リーグはまだ結成されていません。

     資本主義というのは商品生産が前提になりますが、プロ球団は一球団では、商品である「試合」をすることができません。つまり、一球団だけでは商品生産もできないわけです。プロ単独の場合、相手はアマになりますから、とてもプロ野球の商品生産とは言い切れません。

     そこで、プロリーグが結成されてこそプロ野球誕生といえると思うのです。ですから、東京巨人軍、大阪タイガース、名古屋軍、東京セネタース、阪急軍、大東京軍、名古屋金鯱軍の7球団で日本職業野球連盟が創設された1936年(2月5日)が、プロ野球誕生の年だと思うのです。そうすると、2006年の今年こそ、プロ野球誕生70年ということになるのです。

     なにもこれは私だけの主張ではなく、日本職業野球連盟創立時からいわれていました。
     それも、ジャイアンツの社員からです。日本職業野球連盟創立総会開催時、大日本東京野球倶楽部の社員として出席し、戦前、戦後を通じてプロ野球発展のため につくした野口努は、プロ野球の成立に関して次のような見解を述べています。

     「プロ野球は、オーガナイズド・ベースボールであるという見地からは、昭和11年2月5日、・・・七クラブで結成された日本職業野球連盟の時から、日本のプロ野球の歴史が始まったと言うべきだろう」

    ●参考文献 「近代プロ・スポーツ」の歴史社会学 菊幸一著 不味堂出版



     ベースボール・ビジネス50 天罰が下った。


     阪神電鉄の46%の株式を握った村上ファンドの村上世彰氏に対し、阪神の星野SDが「絶対に天罰が下る。断言したる」と言ったのは5月15日のことでした。このときは、星野さんも最後は神頼みかと思ったらなんと、それから4週間後、村上氏に本当に天罰が下ったのです。さすが、星野SD、その筋には強い(としかいえない)。

     6月5日村上氏は、ライブドア(LD)社によるニッポン放送株の買占め問題でインサイダー取引により巨額の利益を得たとして、逮捕されました。
     逮捕直前に行われた村上氏本人の記者会見では、インサイダー取引の容疑を認めていましたが、このときはLD社によるニッポン放送株の買占めを事前に「聞いちゃった」、あくまでも受身的であったことを強調していたのです。

     しかし逮捕後、報道された話によれば、LD社によるニッポン放送株の買占めは、村上氏からの働きかけによるものであり、LDがニッポン放送株を大量取得した時間外取引を指南したのは、村上氏本人だといいます。結局村上氏は、一緒にニッポン放送株を買占めようとLD社を誘いながら、自らは売り抜け百億円を超える利益を得たのです。このため、LD社は単独で買占めを進めなければならなくなったといいます。このことがLD社関係者の逮捕により明らかになったことにより、村上氏の逮捕へとつながったといいます。

     当時、小さなニッポン放送を買収すれば、巨大なフジテレビを支配することができる構図になっていたため、村上ファンドは早くからニッポン放送株を保有していました。フジサンケイグループでは、創業家であった鹿内家との問題もあり、なかなかニッポン放送株が動かなかったため、村上ファンドのニッポン放送株は、塩漬け状態にあったのです。このため、村上氏がLD社に働きかけのが、LD社によるニッポン放送株買占め事件の真相でした。これらについては堀江氏の逮捕以前から指摘されていたことですが、警察官僚出身者を片腕とする村上氏が逮捕されるとは思わなかったのが、私の素直な感想です。

     塩漬けになっていた放送株の買占めをIT会社に働きかけ、自らは売り抜けるという構図は、楽天によるTBS株の買占めと同じです。TBS株の場合は楽天との話が決着していないため、村上ファンドは、一度は売り抜けしましたが、再度、株の取得を進めていました。このため、村上ファンド関連株としてTBSの株価が下がり、TBSと楽天の交渉にもこの事実が影響を与えそうな気配です。

     村上ファンドによる阪神電鉄株の買占め問題については、村上氏の逮捕により、阪急によるTOBに村上ファンド側が応じるようで、阪急・阪神統合で落ちつきそうです。阪急・阪神の統合効果については、逮捕直前の会見で村上氏は疑問符を投げかけていましたが、氏が主張していた京阪電鉄との統合は阪急による統合話が出る直前にあった話で、京阪との統合は、京阪側が提示した買取額に村上ファンド側が応じなかったものであり、村上氏の主張のとおりであれば、村上ファンド側が自らの利益のため、阪神の企業価値を損ねたことになります。

     従来の手法とは異なり、発行株式の半数近くを握った阪神電鉄株の場合、経営権の取得にまで及ぶのか言われた村上ファンドでしたが、村上ファンド側が阪神電鉄側に示した取締役候補は、村上ファンド関係者ばかりで、鉄道会社を経営する意欲は微塵もなかったのです。逮捕後の報道を見ても、株で金儲けはするけれども、経営には全く興味がなかったことが明らかになっており、村上ファンドは所詮、安く買い占めた株を高値で買い戻すことを迫るグリーンメイラーに過ぎなかったわけです。しかも最悪なのは、この買収劇が庶民の楽しみと安全を人質にしたものであったことでした。

     タイガースの上場案は、村上ファンドが経営権を握ればタイガースの運命が村上ファンドに握られることが明白になることでしたし、村上ファンド側の取締役候補に鉄道の専門家がいなかったことは、村上ファンドが鉄道の安全管理を軽視している現れで、それはJR福知山線の事故を彷彿させるものでした。そして、天罰が下ったのです。


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