ベースボール・ビジネス by B_wind

    ベースボール・ビジネス41 読売の思惑どおりになった

    ベースボール・ビジネス42 麻袋のベースボール

    ベースボール・ビジネス43 公共財とハゲタカ

    ベースボール・ビジネス44 プロ野球ビジネス雑感 2005年11月

    ベースボール・ビジネス45 選手会の改革案



     ベースボール・ビジネス41 読売の思惑どおりになった


     前回「ドラフト改革案まとまらず」と書きましたが、急転直下、7月19日のオーナー会議で、(1)高校生ドラフトの先行開催(2)自由獲得枠を「希望入団枠」と名称変更し、1減、という事実上の先送り案でまとまりました。

     朝日新聞によれば、5月から6月にかけて行ったアンケートでは、オリックス・楽天など7球団が完全ウェーバー制(又は準じた制度)を支持し、資金力のある読売、ソフトバンクが自由競争に近い現状維持を主張していたそうです。

     ところが、7月に入ってから読売のFA取得期間の短縮を条件にした完全ウェーバー制案がでると、「資金力がある球団に今まで以上に戦力が集まる可能性が強い」と反発が強まり、「(育成した選手を奪われる)FA短縮よりはましだ」と、ウェーバー制の主張から「自由枠を残した方がいい」と立場を変える球団も出てきて、結局、ドラフト改革はいつものように、読売の当初の思惑どおりに自由競争に近い形で決着することになりました。

     昨年明らかになったプロ野球危機は、球団の赤字問題であり、裏金問題でした。その象徴とされたのが、ドラフトの自由獲得枠とFAでした。自由獲得枠による選手獲得競争の激化は、裏金を産みだし、新人選手の獲得費の高騰を招きました。

     このためドラフト改革と並び不正防止対策もとられることになりましたが、結局、アマチュア選手や監督ら関係者への利益供与を禁じる「倫理行動宣言」を発表するにとどまっています。

     また、FA取得期間の短縮は、何の規制もなければ、人件費の高騰を招き、資金力のある球団に戦力が集中する恐れがあります。その解決策の一つが、球団の資金力の均衡を図る、サラリーキャップ制やレベニューシェアなどの財政均衡策です。ただ、その財政均衡策に実効性を持たすには、球団経営の透明化とリーグや機構によるカバナンスが必要になってきます。この点は前回指摘した点です。

     ところが、カイシャ・フランチャイズ制(親会社の広告宣伝媒体)という球団と親会社の関係は、球団間の不均衡を招くだけでなく、その不透明な関係は、球団間の球団の自立性・自律性を損ない、また、裏金の温床にもなっています。今回のドラフト改革は、この親会社と球団の不透明な関係にメスをいれるいい機会だったはずです。



     ベースボール・ビジネス42 麻袋のベースボール


     今回は趣向を変えてスポーツの由来の話です。サッカーのコーナーキックを見ていると、コーナーフラッグ(コーナーポスト)がいつも邪魔だなと思います。コーナーフラッグは、ボールがタッチラインあるいはサイドラインを通過したかを区別するために必要とされます。ですが、コーナーポストは、ラインができるよりも前からあります。

     サッカーグラウンドのことをピッチといいますが、ピッチとは杭と杭で囲まれた場所を指します。サッカーは芝生の上で行われものとされますが、サッカーが生まれた19世紀、芝の丈は今よりも長くくるぶしまであったそうです。単なる線じゃ、境界が分かりにくかったわけです。

     ピッチの語源は、クリケットに由来します。ご存じのようにクリケットはバッツマン(打者)の後ろにあるウィケット(三本の棒の上に二本の横木が乗っている)めがけてボウラー(投手)がボールを投げ、それをバッツマンが空振りし、ボールがウィケットに当たり、ウィケットが倒れると、バッツマンはアウトになります。

     このウィケットとウィケットに囲まれた場所をピッチといいます。ピッチは投げるという意味ではなく、突くとか掴むというpick(ピック=突く、摘む)の姉妹語で、杭を打ち込むとか、地面に突き刺すという意味からきています。

     ベースボールのルーツは、タウンボールで、タウンボールはイギリスのラウンダーズに由来するとされています。成文化されたタウンボール、マサチューセッツ・ゲームでは、ベースは杭(ポスト)とされています。イギリスで今も行われているラウンダーズも、ベースは杭です。芝生の上でプレーするにはベースは杭でないと目立ちません。芝生では杭が目印という重要な意味を持っていたのです。

     ところが、ベースボールのベースは、杭ではなくキャンパス地の袋です。丈の長い芝生でベースボールが行われていたら麻袋ではベースが目立ちません。ベースボールはもちろん、芝生の上で行われていましたが、ベースとラインの部分は芝が削られ土になっており、ベースが杭でなくても分かるようになっています。

     イギリスでスポーツが芝生の上で行われるようになったのは、イギリスの気候とも関連しています。イギリスの首都ロンドンは北緯51度。日本の札幌が北緯43度ですから、かなり北の方にあります。サハリンと同じ緯度のため、夏は昼が長く、冬は夜が長くなります。ただし、メキシコ湾流の影響で緯度のわりには気温が暖かく、冬でもあまり雪はふりません。

     イギリスの夏はとても短く、3〜4週間で終わってしまいます。気温も、20度を越えればいいほうで、25度を越えることは滅多にありません。この気候が、冬芝と呼ばれる寒冷地型芝の生育に最適でした。イギリスの芝生は一年中枯れることはありません。

     ところが、アメリカでは地域によってことなりますが、ロンドンよりも寒暖の差があり、芝生の手入れには手間が必要でした。例えば、競馬もイギリスでは、芝が常識ですが、アメリカではダート(土)が主流です。テニスのウィンブルドン大会は芝ですが、全米オープンはオールウェザーです。アメリカでは、必ずしもスポーツ=芝ではないということです。

     マサチューセッツ・ゲームのマサチューセッツ州には、ボストンがあり、ニューイングランド地方といわれるように極めてイギリス風の文化や伝統が色濃い地域です。このため、イギリスの伝統に縛られ、マサチューセッツ・ゲームのベースは杭として残ったのではないでしょうか。

     ニューヨークは、昔、ニューアムステルダムといわれたようにオランダ植民地でした。最初のベースボール・チームはニッカーボッカーズといいますが、ニッカーボッカーとはオランダ人の俗称で転じて、ニューヨーカーの別名となったものです。ニューヨークは、ボストンと異なり、イギリスの伝統に囚われることはなく、自由で寛容な風土があったようです。

     ヨーロッパのスポーツや娯楽を、最もありのままにアメリカで再現したのは、二ューアムステルダムに移住してきたオランダ人であった、ともいわれます。そんなニューヨークがだからこそ、杭ではない麻袋のベースボールを生んだのではないでしょうか。

    【参考web】

    Cricket Explained
    > http://pavien.net/about/explained.htm

    Townball
    > http://www.geocities.co.jp/Athlete-Crete/8414/town_h3.html

    アメリカ・スポーツ史の発端
    > http://www.eonet.ne.jp/~otagiri/new_page_36.htm#4-1



     ベースボール・ビジネス43 公共財とハゲタカ


     阪神の人気は巨人を今や上回り、盟主交代とかいう話題にもなったりしますが、阪神の親会社、阪神電鉄というのは、大手私鉄の中でも、相模鉄道に次いで営業区間が最も短く、中小企業に毛が生えたような会社であります。

     しかも、ライバルの阪急が阪急・東宝グループとしてナショナル・ブランドになったのに対し、阪神間のローカルブランドのまま。甲子園球場とタイガースというお宝を持っていますが、タイガース人気にあぐらをかき、ついこの間まで、弱い方が人件費が安くていいといっていた会社であります。それが、今回、「堅実な経営」という皮肉な言葉で、買収のターゲットになってしまったのであります。

     星野SDの巨人監督就任騒動で見せた阪神の対応をみれば、阪神の会社としての実力は推し知るべし。人気に見合った器ができていないのが、阪神であります。ですから、他球団のファンも、いずれタイガースは落ちてくると安心していられ見ていられたのです。成長の限界というやつですな。

     この成長の限界を村上さんなら、突き抜けてくれるのでありましょうか。いかに・・・・。因みに、村上氏もコミッショナー某氏も虎ファンであります。

     ところで、読売巨人軍の渡辺恒雄球団会長は、村上ファンドが阪神電鉄にタイガースの株式上場を提案したことに関して「プロ野球は社会的な国民の公共財産。ハゲタカが乗っ取って売買する、そういう対象になるのは第3条違反」と批判(2005年10月8日スポニチ)しました。

     このプロ野球協約第3条の公共財という文言は、2002年7月9日改正されたものです。2002年の改正は、ベイスターズのオーナー企業変更時の騒動を受けてのものです。この騒動は、スワローズの株式を20%保有していたフジテレビの資本関係にあったニッポン放送が、ベイスターズのオーナー企業になることを、一旦、実行委員会とコミッショナーが認めたのに対し、当時、東京読売巨人軍のオーナーであった渡辺氏が反対し、TBSに乗り換えさせた事件です。

     このときオーナー会議の力も強くなり、従来は、球団の譲渡は実行委員会の承認があれば認められていたのが、オーナー会議の承認も必要と改正されました。ですから、公共財という文言は、渡辺氏の要望で追加されたものだと想像できます。

     協約が改正された同じ2002年7月9日巨人は、ビジター用ユニフォームの胸マークを「TOKYO」から「YOMIURI」に変更しています。公共財とは名ばかりに、しかも、「巨人」ブランドの意味も考えず、ただ、読売色を全面に押し出してきたもので、巨人人気凋落のひとつとされています。

     相手を公共論で攻撃し、自らは私利私欲に動くというのは、まさに読売の伝統であります。かの正力松太郎氏も日本テレビの開設にあたって、資金不足から日本初の民放テレビということで朝日新聞や毎日新聞からも支援を受け、共同経営体制をとっていました。

     ところが「正力は両社からきた役員たちに向かって,テレビは国家的な事業である,私利私欲を捨てねばならない,個人が株をもつことはまかりならぬと,誓いをたてさせた。ところが,いつのまにか読売が筆頭株主になっていた。両者の役員たちが読売の株集めに気づいた他時はもう遅かった。日本テレビの株はほぼ読売が掌握し,新聞と同様,正力個人の手へと落ちていった」(巨怪伝)



     ベースボール・ビジネス44 プロ野球ビジネス雑感 2005年11月


     日本でも近年、企業買収が盛んになり、2005年は、ライブドアによるニッポン放送株買収に始まり、村上ファンドによる阪神電鉄株の買収や楽天によるTBS株の買収とテレビメディアとプロ野球を舞台にまさに劇場型の企業買収「劇」が巷を賑わしております。

     ここで問題になっているのが、他球団の株式所有を禁止したプロ野球協約第183条です。「球団、オーナー、球団の株式の過半数を有する株主、または過半数に達していなくても、事実上支配権を有するとみなされる株主、球団の役職員および監督、コーチ、選手は直接間接を問わず他の球団の株式、または他の球団の支配権を有するとみなされる会社の株式を所有することはできない」というものです。

     楽天イーグルスを保有する楽天は、これまた横浜ベイスターズの株式の約70%をグループで保有するTBSの株式を20%弱取得し、TBSに企業統合を迫っております。また、阪神タイガースの親会社である阪神電鉄株の40%を取得した村上ファンドのひとつMACアセットマネジメントは、同じ関西地区をフランチャイズとするオリックス・バファローズの80%の株式を保有するオリックスが45%の出資をしているとされています。しかも、役員を派遣しているそうです。これらは、協約183条に違反するのではないかとオーナー会議でも問題になっています。

     また、ライブドアに買収されそうになったニッポン放送は、結局フジテレビの完全子会社になりましたが、さらにフジテレビに分割吸収されるようです。ご存じのようにニッポン放送は、横浜ベイスターズの残りの30%を保有し、フジテレビは、ヤクルト・スワローズの20%の株式を保有していましたから、これでフジテレビが2球団の株式を保有することになり、これまた、協約183条に違反するのではないかとオーナー会議で問題にされました。

     183条ができたのは、他球団の株式保有が、近代スポーツの持っている競争という要素を損なう恐れがあるからです。スポーツの競争性を否定しては近代スポーツは成立せず、当然、プロスポーツも成立しません。

     しかし、スポーツとして成立しないからといって、株主(企業)の経済活動を否定することはできません。昨年の近鉄バファローズとオリックス・ブルーウェーブの合併のように、球団の合併・統合は、プロリーグ全体の存続に係わる問題になり非常事態であるのに対し、通常の企業合併や企業統合は、日常的なものになってきています。この企業買収時代に、親会社に依存する日本(アジア)プロ野球独特のカイシャフランチャイズ・モデルは、限界がきているのではないでしょうか。新しいビジネスモデルを構築する必要に迫られています。

     協約第28条では株主構成の届け出の義務付けや外国資本の制限を定めていますが、オリックスの外国人持ち株比率は50%を超えており、ヤクルト・スワローズの80%の株式を保有するヤクルト本社の株式の20%はフランスの食品関連企業ダノンが取得しています。

    ●参考web

     村上ファンド(M&AコンサルティングHP 阪神電鉄株の保有増について)
    > http://www.maconsulting.co.jp/PDF/051003_PR(J).pdf
     村上ファンドの研究 (2)見えぬ実態 増す影響力 読売新聞(11月9日)
    > http://www.yomiuri.co.jp/atmoney/special/85/murakami002.htm



     ベースボール・ビジネス45 選手会の改革案


     プロ野球選手会がNPB改革案を発表しましたが、なんと「史上最も成功したスポーツビジネス(種子田穣立命館大学教授)」ともいわれるNFL(アメリカンフットボール)を共産主義と表現しています。

     元共産党員の渡辺恒雄読売新聞グループ本社会長なら分からなくもないのですが、新たなビジネスモデルを提唱する選手会の「改革案」に社会体制の用語である「共産主義」という言葉がでてきたことに驚きを禁じ得ません。戦後のレッドパージ(赤狩り)でもあるまいし、時代錯誤も甚だしいといわざるを得ませんし、何かしらの意図が感じられます。

     そもそも、NPBやNFLといったリーグスポーツ・ビジネスは、リーグ戦興行体であり、フランチャイズビジネスです。そこではリーグと球団は、フランチャイザー(本部)とフランチャイジー(加盟店)という関係にあります。スポーツビジネスの場合、加盟店である球団が先に設立されている場合が多く、ビッグクラブ(有力加盟店)とリーグ(本部)との確執(主導権争い)が常に問題となります。いわば、販売店が先にでき、その後本社ができた「ヤクルト」みたいなものです。

     この点、Jリーグは、リーグが主体となってできた組織です。もちろん、クラブはJリーグ設立以前からありましたが、Jリーグへの加盟に当たっては、リーグ側で加盟基準を設け、選考もリーグ側で行っています。集権的なJリーグはリーグスポーツとしては少数派ですが、一般的なフランチャイズビジネスでは、本部(リーグ)主導は当然とされるものです。

     プロリーグでは、NFLのようにリーグの力が強い集権的なリーグとNPBのように球団の力が強い分権的なリーグに分類することができますが、NFLのように本部(リーグ)主導の集権的なフランチャイズビジネスは、フランチャイズビジネスではごく一般的なモデルであり、これを共産主義と表現するということは、リーグスポーツ・ビジネスの基本を理解していないことになります。
     選手会のせっかくの「改革案」ですが、結局はビッグクラブ(巨人、ソフトバンク)、選手会顧問弁護士、そして選手自身への妥協の産物のように思えてなりません。


     第46回〜はこちら


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